『あんぱん』が描くマスメディアへの懐疑 のぶと東海林の“反省会”で語られたこと
7月1日、折り返し地点にさしかかった『あんぱん』(NHK総合)第67話の放送では、報道に対する懐疑と反省が語られた。
高知新報の一室。居並ぶ記者たち。その中には入社したてののぶ(今田美桜)もいる。おもむろに口を開く編集局長の霧島(野村万蔵)。「我が高知新報では、夕刊発行の申請をする」。夕刊の編集長に任命されたのは東海林(津田健次郎)。スタッフは石清水(倉悠貴)とのぶだ。
何を伝え、何を書くか。駆け出し記者ののぶにとって大きな課題だが、別の意味で、それぞれが報道の使命を振り返っていた。戦時中、言論統制により新聞は1県につき1紙に限られていたが、戦後は進駐軍の意向で新聞の発行が奨励された。夕刊の発行はその一環である。
のぶたちが最初にやったのは部屋の片づけと掃除。元いた編集局の机は手狭なため、社内の引っ越しを決行する。とはいえ「猫の手も借りたい」高知新報で、遊軍記者の3人を助ける人間はなく、のぶは岩清水と二人で物置部屋を整理することになった。
ひとしきり部屋が片付いたところで、のぶが願い出たのは取材の許可。申請が通って忙しくなる前にという考えだが、手伝いもせず座って見ていた東海林は、まずは構想を練ろうと制止する。クセが強くて自分に甘い、それでいて何やら秘めた思いがある東海林は、登場するなり視聴者のハートをがっちりつかんだわけだが、東海林がどういう人物か、第67話でその一片が垣間見えた。
「どんな夕刊にするべきなのか。むやみに取材出ても無駄んなるだけや」という東海林の言葉は、出不精を正当化するだけでなく、ちゃんと理由があった。東海林いわく「俺は新聞を信用してない」。ただならぬ気配を漂わせる夕刊紙編集長の述懐は、戦時中の経験がそのベースにあった。
のぶが新聞社に入社したのは史実どおりであるが、戦後の混乱期に日本中いたるところで価値観の転換があり、報道現場でその影響は特に深刻だったことが見て取れる。国の統制下で、体制への翼賛的な記事を乱発した新聞を、東海林は「ええ加減なことばっか」「嘘まみれ」と断じる。新聞報道では日本軍は優位に戦争を進めて、皇国の威光は四海に満ちていたのだ。