『べらぼう』横浜流星の芝居も物語自体も「そう来たか!」の連続 誰袖の暗躍にもゾクゾク
「そう来たか」とは、目の前にあったけれど多くの人が見過ごしていた大きな可能性。田沼意次(渡辺謙)のもとには「どれほど広いかわからないほど広い」と言われる蝦夷の話が、そして蔦重(横浜流星)のもとには「どんな画風になるのかからっきし読めねぇ」と言われた歌麿(染谷将太)の才能が広がる。とはいえ、思いつきで動いても、せっかくの可能性を撮り逃しかねない。いつの世も、準備とタイミングが大事。物事は急がば回れなのだから。
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第21回「蝦夷桜上野屁音」では、金銀銅山が眠るという蝦夷の地を天領として手に入れようと模索する意次と、歌麿を稀代の絵師として売り出す夢を実現しようとする蔦重の姿が描かれた。
しかし、「何それ、そんな上手くいくわけないじゃない」 という幼い唐丸の声が聞こえそうなくらいどちらも簡単な話ではない。蝦夷地の一部は松前藩の領地となっている。領地を召し上げるには、正当な理由が必要だという意知(宮沢氷魚)の主張もごもっとも。実は以前、意次は貿易用の銅を確保するため秋田藩領の阿仁銅山に上知令を出したものの、激しい反発があり翌月に撤回したという過去があったのだ。
将軍・家治(眞島秀和)が血筋を諦めてまで、この国の未来を自分に託すと言ってくれた。その期待に応えるためにも同じ失敗を二度と繰り返すわけにはいかない意次。しかも、今回は「北辺に巣食う鬼」とも呼ばれる松前藩主・松前道廣(えなりかずき)が相手となる交渉。そのうえ道廣は策士の一橋治済(生田斗真)と非常に親しい間柄であることも、意次を慎重にさせた。
「正当な理由が必要だ」と主張した意知が目をつけたのは、松前藩とオロシャ(ロシア)との抜け荷(密貿易)の噂。なんとかして、その証拠を掴みたい意知は「花雲助」と身分を隠して吉原へ。平賀源内(安田顕)つながりで、平秩東作(木村了)から蝦夷地に詳しい者として土山宗次郎(栁俊太郎)を紹介された。その土山のお気に入りの遊女が誰袖(福原遥)というのも、何かの縁。しかも、誰袖はあれだけ蔦重を追いかけ回しておきながら、花雲助こと意知に一目惚れするというから、人生何があるかわからない。
一方、順調に成り上がってきたと思われた蔦重も、ここにきて大きな足踏みをすることに。蔦重の前に立ちはだかっていた西村屋(西村まさ彦)を一気に追い込もうと作った『雛形若菜』ならぬ『雛形若葉』が一向に売れない。よくよく見れば同じように見えても、その繊細な色の出方が全く違う。これまで蔦重とはどちらが出し抜くかという戦い方をしてきたが、もともとの力量の差を感じずにはいられない。
加えて鶴屋(風間俊介)も、それまで蔦重のもとにいた絵師の北尾政演(古川雄大)に戯作者としての才能を見出し、山東京伝の名で『御存商売物』を書かせて大ヒット。大田南畝(桐谷健太)による番付で一等に選ばれるほどの評判となった。こんなに近くにいたのに、その才能を発掘することができなかったのも、やはり本屋としての経験の差だ。
さらに「俺が流行らせる!」と宣言した狂歌も、すでに多くの本屋が狂歌集を出す動きになっており、後手に回った印象。まだまだな自分を痛感して肩を落とす蔦重を、南畝が「そこがいいとこじゃないか」と元気づける。ずっとやってきた人には見えないものが見える、そして凝り固まっていない柔軟な発想が「そう来たか!」と思わせる企画につながると。
その南畝の言葉に奮い立った蔦重は、南畝に狂歌集ではなく青本の執筆を依頼。この提案には南畝自身も「俺が!?」と驚きを隠せないくらいの「そう来たか」。他の本屋から出る狂歌集で認知度が高まったタイミングで青本を出す。そのとき世間も「あの大田南畝が青本!?」と南畝と同じようなりアクションをするはずだと見据えたのだ。
また、狂歌集が流行ったあとは「自分もやってみたい」という人たちが続出することを予想し、元木網(ジェームス小野田)、朱楽菅江(浜中文一)には狂歌の指南書を出さないかと持ちかける。老舗本屋とは違うことができるからいい。そう腹をくくった蔦重の目に再び闘志が灯っているように見えた。