“さとこ”桜井ユキが選んだ生き方とは 『しあわせは食べて寝て待て』が描く“良質な普通”

「粥有十利(しゅうゆうじり)……お粥には十の功徳があること」

 お粥はお米を水で炊き、塩で味付けしただけのシンプルな料理だ。けれど、胃腸を整えて元気を補ってくれる。『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)第3話は、そういう“良質な普通”を持ちたいと思わされた回だった。

 鈴(加賀まりこ)と司(宮沢氷魚)に影響を受け、自分のペースで薬膳を生活に取り入れ始めたさとこ(桜井ユキ)。梅雨に漬けた梅のシロップが出来上がった頃、元同僚の小川(前田亜季)から誘いが来る。

 かつて、さとこは不動産会社でバリバリ働いていたが、病気がきっかけで後輩から嫌がらせを受けるようになり、一層の心身不調で退職を余儀なくされた。さとこのアドバイスで団地の空き部屋に借り手がついたことからも、きっと優秀で退職を惜しまれるような社員だったのだろう。辞めた理由がハラスメントなら、さとこの復職が認められる可能性もあると小川は考えていた。

 週4日のパートと、団地でのゆるやかなご近所付き合いに薬膳。それらで成り立っている今の生活は平穏だけど、いわば普通だ。さとこの母・惠子(朝加真由美)のように、「つまらない」と思う人もいるだろう。少なくとも、これまでのスキルや経験が生かせているとは言い難い。なおかつ、家賃を下げてもなお家計は苦しく、やりがいと収入アップを望めるまたとない機会にさとこの心は揺れる。

 そんな中、さとこはパート先であるデザイン事務所の社員旅行に参加。社長の唐(福士誠治)が行き先を温泉に決めたのには、少なくとも2つの理由がある。1つは、クライアントから何度もデザインのリテイクを食らっている部下のマシコ(中山雄斗)に気づきを与えるため。

 猛暑が続く中での温泉旅行は当初、社員から不評だった。けれど、夏バテやエアコンによる冷えで疲れた身体には案外温泉が沁みる。その中でもさとこたちが浸かった湯は素朴だけど、さまざまな効能があり、合理的な性格の唐が週末にわざわざそのためだけに訪れる価値のあるものだった。唐は攻めたデザインにこだわるあまり迷走しているマシコに、この旅で「良質な普通に勝るものはない」と伝えたかったのだ。

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