映画『ヒプマイ』斬新システムの“なに”がすごいのか “シブヤ”乱数推し男性ライターが分析
映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』の、映画興行に対する新たな挑戦が注目を集めている。観客の投票結果で物語が変わる「インタラクティブ映画」形式を採用し、ライブ感と多彩な音楽性を一度に味わえる構成となっているからだ。進化を続けるアニメ音楽映画の新たな一歩として、その成果に着目しながらヒプノシスマイクというコンテンツ自体の魅力について迫っていきたい。
『ヒプノシスマイク』は3名からなるグループ同士が、ラップバトルで対決する様子を描いた音楽原作キャラクターラッププロジェクトで、今回の劇場版作品のほか、声優陣によるライブ、TVアニメ、舞台などマルチメディアで展開している。各ユニットはイケブクロ、ヨコハマ、シブヤ、シンジュク、ナゴヤ、オオサカとそれぞれの“ディヴィジョン(地区)”を拠点としており、個性豊かな男性キャラクターたちで構成されている。今回の映画では、それら6つのユニットに、女性メンバーだけで構成された王者・中王区を加えた、計7ユニットがラップバトルを繰り広げ、勝者を決定していく過程が描かれている。
山田一郎役の木村昴がナビゲート 映画『ヒプノシスマイク』を楽しむ“How to 動画”公開
2月21日に全国公開される映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』より、木村昴がナビゲートする“Ho…今作の最大の特徴は、観客のリアルタイム投票によって物語が変化するインタラクティブ映画という手法を、劇場映画として日本で初めて導入した点である。各回で行われるグループごとのラップバトルを観た後、観客がスマートフォンの専用アプリから投票を行い、その結果によって勝者が決まり、物語が変化していく。ルートは48パターン用意されており、そのうちのどのエンディングに辿り着くかは観客による投票次第、という、画期的かつ実験的な方式だ。
近年のアニメシーンではアイドルやバンド作品が盛り上がりをみせており、劇場での応援上映が定着したことも相まって、音楽ライブを映画館で体験する作品が多く制作されている。その中でも特に精力的なのが『BanG Dream!』(通称:バンドリ)である。同シリーズの劇場版作品は、複数のユニットがフェス形式でライブを盛り上げる様子を描いた『BanG Dream! FILM LIVE』と、RoseliaやMyGO!!!!!など1つのユニットに焦点を当てて物語を追う形式の2種類が制作されている。
この両者には、それぞれ異なるメリットが存在する。『BanG Dream! FILM LIVE』では、多くのユニットによる特色豊かな音楽表現を楽しめる一方、1つのユニットの出演時間はどうしても限られてしまう。出番の減少により物語を十分に描きにくく、推しのユニットがあるファンにとっては、活躍する姿をもっと見たいという要望が強くなるという難点がある。一方で『BanG Dream! Episode of Roselia I:約束』のように、1つのユニットに注目した作品であればRoselia推しにはたまらないが、ほかのユニットを推すファンには鑑賞の動機が薄れてしまう。特に複数のユニットが活躍することが、当たり前になった現代の2次元音楽コンテンツでは、音楽性の豊かさと物語性を両立させることがきわめて難しい。
その点、今回の映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』は、観客投票を取り入れることでこうした問題をクリアしている。劇場に集まったファンの推しユニットを投票で選び出すことにより、観客ごとに異なる物語を提示し、多くのユニットの中から最終的に1つのユニットの活躍をじっくり映し出すことが可能になる。
この手法は、音楽アニメ映画が持つライブ感や、多数のユニットがもたらす多様な音楽、そして各ユニットに備わる物語性という3要素を最大限に引き出すことに成功した。『ヒプノシスマイク』を初めて観る人には各キャラクターやユニット、音楽性を知ってもらい、長年愛し続けてきたファンにはドラマを提供して、これまでの物語の結末を十分に楽しませることができる。
これは、実際の音楽フェスでも似たような体験と言えるのではないだろうか。友人に誘われて参加した音楽フェスで未知のアーティストを知り、新たな推しが生まれる。また、既に推しアーティストがいる場合は、その歩んできた軌跡を思い出して物語性に胸を打たれる。今作は、その体験を映画館という空間で再現しているのである。
映画『ヒプノシスマイク』を麻天狼推しがレビュー 大スクリーンで観る推しに涙腺崩壊
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週…もっとも、推しが活躍できなかったファンにとっては寂しい鑑賞体験となる恐れもあるが、今回の形式はある程度それを補う工夫がなされている。劇場内の多数決で勝敗が決まるため、観客数が少ないほど1票の影響力が高まり、推しが勝ち上がる可能性も相対的に上昇する。実際、筆者が観に行った回では、第1ステージで投票したユニットがすべて勝ち上がり、全5回のうち4回は投票したユニットが勝利した。
他にもイケブクロ・ディビジョンのグループであるBuster Bross!!!は、池袋の劇場で勝ち上がりやすいなどのような、聖地巡礼のような要素もあり、推しの活躍を観たければ彼らの“ホーム”に行ってみるという手段も存在する。それでも推しが敗退してしまうファンはいるだろうが、推しが勝ち上がるか否かというドキドキ感は、ライブ感を一層盛り上げる要素となり、またほかのユニットの魅力を再発見するきっかけにもなるのではないだろうか。