『黒岩メダカ』にみる現代ラブコメの生存戦略 『少年マガジン』とラノベの2020年代

 『からかい上手の高木さん』や『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』、『僕の心のヤバいやつ』など、ここ数年の「ラブコメディ」ジャンルのアニメの特徴を考えてみたとき、「一対一」の関係を描く学園ものが人気だったことを挙げるのは難しいことではない。これらの作品は中高生のヒロインと主人公が「どのようにして」結ばれるのかということを主題に展開され、近年幅広く視聴者を獲得してきた。

 あるいはさらに、長いあいだ「ラブコメディ」において大きな要素の1つとして見なされてきた「お色気」の要素が後景に退いたことも特徴として挙げることができるだろう。現在放送されている『アオのハコ』を例にとってみれば、主人公とヒロインがひとつ屋根の下で暮らすというストーリー展開であるにも拘らず、いわゆる「お色気」とされるような描写は控えめだといえる。このような、「純愛」要素に比重をおいた「新しい」ラブコメが中心となった潮流が作られつつあることは、れっきとした1つの事実だ。

 しかし他方で、複数のヒロインが登場し、「お色気」要素が押し出され、コメディによってストーリーが展開されてゆく形式のラブコメが近年になって再び盛り上がりつつあることもまた、ラブコメアニメの現在地から見えてくることだろう。ここでは、そうした必ずしもシーンの中心ではないような近年の諸作品について、2つの系譜から考えてみることにしたい。

『五等分の花嫁』『彼女、お借りします』——「『マガジン』ラブコメ」の系譜

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 こうした形式のラブコメを担うのはまず、『週刊少年マガジン』のラブコメ作品たちだ。現在連載されていて、かつアニメ化されているラブコメディ作品は5つあるが、重要なのはこれらの作品がどれも先に挙げた特徴を踏襲していることである。とりわけ『甘神さんちの縁結び』と『女神のカフェテラス』を比較してみれば、冒頭が同様のフォーマットで展開されていることが伺える。それは似たようなラブコメが粗製濫造されているということではなく、そうした展開の作品を希求する読者が一定以上存在していることを示してはいないか。

 『マガジン』においてラブコメがここまで大きな地位を占めているのには、いくつかの理由があると筆者は考えている。まず第1に挙げるべきは、『五等分の花嫁(以下、ごとよめ)』と、『彼女、お借りします』のヒットだろう。2017年に連載が始まった両作はともに一定の人気を集め、『マガジン』における「ラブコメ」のリブートに大きく貢献していると言える。特に『ごとよめ』主人公の「(やや独善的な)勉強のできる優等生」という設定は、少なからず後続の作品に影響を与えているだろう。

 また、先行する世代の存在も無視できない。『ごとよめ』の作者・春場ねぎがそのペンネームを『魔法先生ネギま!(以下、ネギま!)』の主人公ネギ・スプリングフィールドから採っていることは有名だが、一方で『ネギま!』と同時期から継続してラブコメを描き続けている作家たちも重要だろう。先に挙げた『女神のカフェテラス』を連載する瀬尾公治、また『カッコウの許嫁』を連載する吉河美希はともに1990年~2000年ごろから継続的にラブコメ作品を描き続けている作家であり、『ごとよめ』のリブート以前から『マガジン』におけるラブコメを存続させてきた。

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 このような土壌によって、現在の『マガジン』における「ラブコメ」の流れは形成されたといえるかもしれない。現在放送されているアニメ『黒岩メダカに私の可愛いが通じない(以下、黒岩メダカ)』は、その最たる例だ。『黒岩メダカ』はここまで見てきた『マガジン』の伝統を受け継いでいるようなラブコメであり、OP映像が話題になったように、一見すると「ゆるい」映像であるように受け取られる。しかしそれはラブコメのアニメの魅力が美しい映像によって展開される「恋愛」の物語だと考えたときに生まれる評価だろう。「ラブコメ」というジャンルの魅力はそれだけではなく、「コメディ」をいかにテンポよく、面白く表現できるかという点にもある。それゆえ、裏を返せば本作は、「ラブコメ」の伝統も受け継いでいる作品といえるのだ。

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