『下山メシ』は深夜帯グルメドラマの次なる一手に 『それぞれの孤独のグルメ』が示す現状
木ドラ24で放送中の『下山メシ』(テレビ東京系)は、深夜帯のグルメドラマに新しい一歩を刻む作品だ。以下、その理由を述べる。
すきっ腹を抱えた主人公が旅先で出会ったグルメに舌つづみを打つ。いわゆる“飯テロ”と呼ばれるドラマ作品が定着して久しい。深夜に放送される味覚を刺激する映像と絶品グルメを俳優陣の絶品の表情によって、食欲への期待値は最大限に高められる。『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のオープニングにあるように、誰にも邪魔されずグルメドラマを楽しむことは「現代人に平等に与えられた最高の癒し」と言っても過言ではない。本稿では、便宜上『孤独のグルメ』以降の実在する店舗をモデルにした深夜帯に放送されるグルメドラマを「飯テロドラマ」と呼ぶことにする。
極端にドラマ性をそぎ落とした演出が飯テロドラマの特色である。『孤独のグルメ』で、主人公の井之頭五郎(松重豊)は輸入雑貨の商談で各地に足を運ぶが、そこに劇的な展開はなく、困りごとや仕事上のトラブルは日常的に生じる範疇にとどまる。それらは五郎が「腹が減った」自分自身を発見するプロセスの一部にすぎない。淡々と過ぎていく各話の前半に対して、食事シーンは過剰なまでに「食べる」行為に注力しており、欠落したドラマ性を補ってあり余る。そのアンバランスさこそ飯テロドラマを特徴づけるものだ。
メシが美味いシチュエーションを、飯テロドラマはストイックに追求してきた。『孤独のグルメ』は孤食に聖域を見出したが、同ジャンルの作品の増加と軌を一にして、飯テロドラマはより洗練され、先鋭化していった。それは新たな要素を加えるプロセスでもあった。出張、接待、アフター5など広義のお仕事もの、失恋やシスターフッド、旅・アウトドア、特定の味覚へのフォーカス等々。結果として起こったのはある種の原点回帰で、テーマの多様化と人間ドラマの深化がもたらされた。『孤独のグルメ』シリーズ最新作の『それぞれの孤独のグルメ』(テレビ東京系)は、松重豊と各話のゲストが各自の絶品グルメを堪能する。登場人物の視点が交錯し、群像劇のカラーが強まっているのは、ここ数年の同ジャンルの傾向を反映している。
山に登る理由を「そこに下山メシがあるから」とする『下山メシ』は、『孤独のグルメ』以降の深夜帯グルメドラマが持つ特徴を実装しており、飯テロドラマのストイックさを受け継いでいる。志田未来演じる主人公のいただきみねこは、山好きのイラストレーターで、下山後に自分だけのグルメを楽しむ。ふもとの町にある店は、有名店ではなくても、どこかほっとする味で地元の人に親しまれている。日常の葛藤を描かず、純粋に美味しいものを味わうシチュエーションを本作は突き詰めている。細部にわたるカメラワークは目の前の料理を実物以上に引き立て、視線と表情筋を駆使した志田の演技は、食が引き起こす全ての感情を再現するかのようだ。