朝ドラ『おむすび』中間総括評論 B'z「イルミネーション」は“平成”をどう照らしたか?

 本作には結を取り巻く複数の「彼氏候補」がいて、さながらそれは「ハーレムラブコメ」=「ギャルゲー」のようである。書道部のイケメンの先輩・風見亮介(松本怜生)、超高校級の野球部エース・四ツ木翔也(佐野勇斗)、幼なじみ・古賀陽太(菅生新樹)、誰が結とくっつくのかも何気に見どころだ(先輩は事実上脱落したようだが)。

 いずれにしてもこのような「複数の恋人候補」との関係が同時進行するさまもまた「平成」的である。ちょうど震災と同じ1995年、Windows 95が発売されてから普及したPCゲームとその影響下において、同様の構造で物語が進行するいわゆる「ギャルゲー」は一ジャンルを築いた。

 現代風に言うならば複数の「世界線」を俯瞰視点でながめる主体のありかたが、この時期改めて発見されたのだ。かつて批評家の東浩紀はこれを「ゲーム的リアリズム」と呼び、平成期のカルチャー(ゲームから小説に至るまで)から横断的にこのリアリズムを見出したのだった(『ゲーム的リアリズムの誕生:動物化するポストモダン2』講談社現代新書)。それは情報社会と自由主義経済が進行し、「選択肢」の同時多発的な多様化・他人の「選択肢」の可視化に直面した当時の時代精神の比喩となっただろう。

「イルミネーション」は何を照らしているか?

 したがって『おむすび』が抱える、緒ジャンルの複数性と同時多発性を抱えた物語構造は、それ自体「平成」を表明しているかのようだ。

 前述したように、「イルミネーション」のオープニング映像が流れるとき、結はギャルになる=カラフルに染まることで平成を受け入れて成熟する。そして「イルミネーション」がB'z=平成の象徴であるならば、このカラフルさ=緒ジャンルの複数性もまた「イルミネーション」である。実際のイルミネーションが複数の光源を同時点滅させるように。

 オープニング映像の後半部(0:57〜)で結は、栄養士として再び「“白”衣」を身にまとう。ただし栄養士としての「白」は、女子高生としての「白」とは意味が異なるだろう。単に何色にも染まっていなかった(進路を決められずにいた)結ではなく、自ら主体的に「白」色を選び取った後の結に変化しているからだ。

 何色も選択できていない真っ白な結が、ギャルになる=平成の過去を受け入れる=イルミネーションに照らされることで「どんな色にも染まりうる」可能性に目覚めた後で、もう一度「白(進路)」を選択するという成長過程があのオープニング映像で示唆されている。

 このようにして「平成」を生きる少女の成長物語が描かれるのだ。

 結が歩むことになる複雑な成長曲線はしかし、彼女のあだ名が「おむすび」である時点で内包されていただろう。おむすびという食べ物がそもそも、あらゆる具材を受け入れ、何色にも染まりうる白米を用いた料理だからだ。

 ドラマ『おむすび』の物語構造は、一つひとつのメニューが「順番」に提供されるコース料理のような単線的なものというよりは、あらゆる具材と主食が同時に存在する「おむすび」としてのありかたであろう。

参考
https://president.jp/articles/-/87170?page=1

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、松平健、仲里依紗、麻生久美子、宮崎美子、北村有起哉、田村芽実、みりちゃむ、岡本夏美、谷藤海咲、松本怜生
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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