『新宿野戦病院』今年一番の賛辞を送るに相応しい作品に 宮藤官九郎が描いた“希望”の正体

 それだけに終盤の展開は、ある意味ではヨウコという存在をまごころから引き離す(つまり可能な限り最初の状態に戻す)ための必然であったわけで、やや矢継ぎ早にまとめられていく点も致し方あるまい。現にエピローグ部分にあたる2027年のシーンでは、亨(仲野太賀)が院長となってまごころは存続し、舞はカウンセラーとしてまごころに常駐するようになり、ヨウコはどこか遠く、中東の戦場でペヤングを広めている。彼らは“ルミナウイルス”を経験したことで(あるいはこれまで描かれたあらゆる出来事を経験したことで)しっかりと前へ進んでいるのだ。そういえば、ヨウコが連行されるシーンでムハマドが再登場したけれど、第1話でヨウコが日本に来た理由であったアリからの手紙はその後どうなったのだろうか。

 いずれにせよ、24年前に『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)で池袋の街に生きる若者たちの生き様を“若者の代弁者”として物語った宮藤官九郎は、今作では歌舞伎町というより狭いエリアにどこからともなく集まってきた世代も性別も国籍も境遇も様々な者たちの群像を、“時代の代弁者”としての立場で描くことに成功した。ここには2024年の歌舞伎町の現在が包み隠されることなく映されており、現実と希望、いつか来る非常時のための警鐘もある。そしてまた“平等”をはじめあらゆる言葉だけが一人歩きして形骸化しきった時代における“生き方”のヒントも提示する。こうしたテーマを、徹頭徹尾コメディとして駆け抜けた点において、今年一番の賛辞を送るに相応しい作品であったと断言したい。

■配信情報
『新宿野戦病院』
TVer、FODにて配信中
出演:小池栄子、仲野太賀、橋本愛、平岩紙、岡部たかし、馬場徹(ドランクドラゴン)、塚地武雅、中井千聖、濱田岳、石川萌香、萩原護、余貴美子、高畑淳子、生瀬勝久、柄本明ほか
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:野田悠介
演出:河毛俊作、澤田鎌作、清矢明子
制作:フジテレビ ドラマ・映画制作部
制作著作:フジテレビジョン
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/shinjuku-yasen/
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