阿部サダヲが語り尽くす『不適切にもほどがある!』 宮藤官九郎との関係性や撮影秘話も

宮藤官九郎の脚本は「そのままやっていれば大丈夫という感覚」

ーー最初に小川市郎というキャラクターについて、どう思われましたか?

阿部:「地獄のオガワ」と言われている人で、ケツバットもするので、話だけ聞くとヤバい奴だなぁと思いました。純子に「起きろブス」というところから始まるので、最初は「大丈夫かなぁ」と思ったけど、実はすごく奥さんのことを好きだし。蓋を開けたら結構、いい人だったので良かったです。

ーー第1話の時点で、小川についてどのくらい知らされていたのですか?

阿部:僕たちも第6話以降の流れは知らなかったんです。

ーー演じる側もどうなるのかわかっていなかったと。 

阿部:最初の頃は知らなかったですね。キャスティングも知らない状態で撮影していたんです。錦戸(亮)くんと古田(新太)さんが同じ人を演じるなんて知らなかったので(笑)。

ーー演じる役の詳しい情報を伝えられていない段階で、役者の方はどれくらい演じられるものなのか、とても気になるのですが。

阿部:でも、普通に暮らしていても、これからどうなるのかわからないで生きているじゃないですか。今日のインタビューも僕がどういうふうに答えるかなんて、事前にはわからないですもんね。もしすごく寡黙な役者だったら戸惑うじゃないですか(笑)。だから「どういうふうになるかわからない」というのは、役者じゃなくても一緒なんじゃないかな。

ーー視聴者に知らされていない小川さんの裏設定みたいなものはあったんですか?

阿部:映画だと箇条書きの細かいプロフィールを渡されることもありますが、今回はそういうことはなかったので、逆に良かったですよね。「この人、〇〇大学出てるんだっけ?」とか考え出すと、縛られて芝居ができなくなるので、逆に聞かない方がいいかなって。

ーー空白の部分は阿部さんの中で埋めていった感じですか?

阿部:そうですね。あとは観ている人が自由に埋めていいと思うので。

ーー『不適切にもほどがある!』のシナリオブック(KADOKAWA)のあとがきで、プロデューサーの磯山晶さんが阿部さんのことを「セリフを一言一句変えずに想像の斜め上の演技をする」と書かれていたのですが、アドリブを交えて自由に喋っているように見えたので意外でした。台詞は一言一句変えてないんですか?

阿部:宮藤さんの脚本って、その場で生まれたようなアドリブみたいな会話を上手に書いているから、昔からそのままやっていれば大丈夫という感覚なんです。ただ、わからない時もありますよ。「なんだろうこの台詞?」って。でも、そういう時の方が楽しいんですよね。

ーー言い回しは脚本読んでる時に考えるという感じですか? 

阿部:現場かもしれないですね。脚本を読んでいる時に相手がどういうふうに台詞を言うのか想像がつかない時があるから。たとえば少年のイノウエ(中田理智)が自分の想像とはるかに違う芝居をやってきたら、「おぉ、なるほど」と思って変える。だから台詞は同じでも、台詞に込めた想いは変わっていくんです。

ーー劇中で何度か小川先生が「気持ちわりぃ」と言いますが、シナリオブックを読むと、ひらがなで「きもちわり」だったり、漢字とひらがなが混ざった「気持ちわりぃ」だったりと、その都度表記が微妙に違うんですよね。宮藤さんの台詞って、わざと濁音を使ったりすることで台詞のニュアンスを伝えることが多いと思うのですが、演じる側としては表記の違いは意識されるんですか?

阿部:影響はあるかもしれませんね。たまたまなのか、ちゃんと考えて宮藤さんが書いているのかを本人に聞くことはないですけど。

ーー「気持ちわりぃ」って言う時、少し早口ですよね。

阿部:心の声ですからね。台詞というよりは咄嗟に出ちゃう感じ。相手が喋っている最中に「気持ちわりぃ」と思ってたから、たぶん早口で言ってるんじゃないかな。昭和から来た人から見たら、コンプライアンスについて喋ってる人は、最初から「気持ちわりぃ」なんでしょうね。

ーー(笑)。

阿部:そういう気持ちもあったのかな。「気持ちわりぃ」って台詞いいですよね。「スカッとしました」と言ってくれる人もいたので、「そういうことを代弁している人なんだな」というのは、逆にわかりましたね。

ーー台詞に緩急があるのが聞いていて気持ちいいです。音楽的な心地よさがあるといいますか。

阿部:リズムってあるでしょうね。宮藤さんの台詞は特にそうだと思います。宮藤さんの台本、最初はだいたい10分ほど尺が多くて、今回は第6話が長かった。だから監督からは「巻いてください」っていつも言われるのですが、宮藤さんもわかって書いているんです。だから、基本的にゆっくり喋ることはないですね。せっかく台詞をもらったのにカットされるのは嫌だから。

ーー今回はホームドラマとしての側面も大きくて、それこそ昭和のドラマを観ているみたいで楽しいなぁと思いました。

阿部:『時間ですよ』(TBS系)や『ムー一族』(TBS系)、あとは『毎度おさわがせします』(TBS系)といった昭和のホームドラマを面白く観ていた世代なので、家族の話を楽しくできたのではないかと思います。家の中で追いかけっこするやりとりとか楽しいじゃないですか。自分の実生活ではやらないですし、親に追いかけられたことも子供を追いかけまわしたこともないので、ああいうやりとりを家の中でやれるのは楽しいですね。

ーー今回は主演でしたが、みんなをまとめる座長としての役割も意識されていましたか?

阿部:いやいや。僕は「こうしましょう」みたいなことを言うタイプじゃなくて「どうぞ、やって」「来てください」っていうタイプなので。だから河合(優実)さんはどんどん来てくれるからラクでしたね。

ーー本当に親子みたいでしたね。親子の空気感はどうやって作っていったんですか?

阿部:「どんどんやって」としか言ってないですね。河合さんはすごく考えて芝居する人ですけど、最初から出来上がっていたので凄いなぁと思いました。ただブスだジジイだハゲだって言い合っていると見苦しいじゃないですか。お母さんが亡くなってしょんぼりしているのを励まそうとしてヤンキーみたいになっている、という設定をちゃんと踏まえて、親子のやりとりが滑稽に見えるように演じてくれたので、すごくよかったんじゃないですかね。

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