『光る君へ』に『源氏物語』が“舞い降りた” 吉高由里子の真剣な眼差しがとにかく美しい 

 『光る君へ』(NHK総合)第31回「月の下で」。ある日突然、道長(柄本佑)がまひろ(吉高由里子)を訪ねてきた。道長はまひろに、一条天皇(塩野瑛久)に入内するも、帝のお渡りもお召しもなく、寂しく暮らす娘・彰子(見上愛)を慰めるために物語を書いてほしいと言う。そう簡単に新しい物語は書けないと一度は断ったまひろだが、彰子のための物語を書くことに決めた。しかし、道長の真の目的は、一条天皇に『枕草子』を超える書物を献上することで、亡き藤原定子(高畑充希)に囚われる一条天皇の心を動かすことだった。

 第31回では、いよいよまひろが『源氏物語』の執筆を始める。自分らしい物語を書くと心に決めたまひろの姿はとても魅力的に映った。

 物語前半では、まひろは自分らしさについて考える。まひろはあかね(泉里香)に『枕草子』の感想を改めて尋ねた。あかねは「気が利いてはいるけれど、人肌のぬくもりがない」と答える。けれど、それはききょう(ファーストサマーウイカ)が「(定子の)華やかなお姿だけを、人々の心に残したい」と願ったからこそ。そして、あかねもまた、彼女らしい色香漂う歌を詠んだ。ききょうやあかねがそれぞれ自分らしい表現をしていること、加えて弟・惟規(高杉真宙)が言った「(自分らしさについて)ぐだぐだ考えるところが姉上らしいよ」「そういうややこしいところ、根が暗くて、鬱陶しいところ」という率直な意見が、まひろの創作意欲を突き動かす。

 ところが、まひろは始めに書いた彰子のための物語の出来に満足いかない様子だった。道長が時折笑いながら読み進めるのを見て、何かが違うと思ったのだ。しかし、道長が真の目的を語ると、まひろは「帝がお読みになるものを書いてみとうございます」と口にする。まひろの心に、新たな物語を描きたいという情熱が湧き上がったのだ。

 この場面で吉高が見せる芯のある強いまなざしに、まひろの意志の強さが感じ取れる。まひろは「帝のことをお教えくださいませ」「時はいくらでもありますゆえ」と道長に頼み込んだ。一条天皇の生身の姿を語る道長の言葉に、まひろは熱心に耳を傾ける。印象的なのは、まひろが時折、深く考え込むあまり、心ここにあらずといった表情を見せていたことだ。一条天皇の心を動かす物語のために思いをめぐらせるまひろの意欲の高さがうかがえる。

 『源氏物語』が“舞い降りる”場面は美しかった。物語が思い浮かんだまひろは筆を執る。この時、まひろはあからさまに笑って見せたり、晴れやかな顔を浮かべたりはしない。しかし、真剣そのものな面持ちで執筆に取り掛かる姿はいかにもまひろらしい。惟規はまひろらしさについて「ぐだぐだ考えるところ」などと言っていたが、人の心の奥深くまで考えて描き出すまひろらしさがあってこそ、作品が書き上げられたのだといえよう。

 一条天皇の機嫌を損ねかねないと不安を覚える道長だったが、まひろは「これでだめなら、この仕事はここまでにございます。どうか、帝に奉ってくださいませ」と告げた。そこまでの覚悟がまひろにはあった。

 物語の終わり、まひろの書いた物語に目を通した一条天皇は複雑な表情を浮かべていた。定子と一条天皇を思わせる物語の始まりが気に障ったのかもしれない。だが、まひろは、道長を介して知った一条天皇の生身の姿を深く落とし込んで物語を作り上げている。人の持つ“陰”の部分も描き、人の姿をありありと映し出す、そんな物語だからこそ心が動かされ、素直に心苦しさを覚えたのかもしれない。次回、一条天皇が献上された物語についてどのように言及するのか、気になるところだ。

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