『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2最終回はS3の冗長な予告編に 継続に立ちはだかる高い壁

 これほど何も起こらないシーズンフィナーレも珍しい。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2最終回となる第8話は、70分をかけたシーズン3の冗長な予告編だ。放送終了後、シーズン4での完結が発表されたが、今やファンの胸中は期待よりも不安でいっぱいのはずだ。果たして玉座を奪われた女王レイニラ(エマ・ダーシー)の運命を最後まで描き切ることはできるのか? そもそも原作小説『炎と血』は映像化可能だったのか? 今後のシリーズ継続には、北方にそびえ立つ壁の如く高い障害が立ちはだかっている。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』がシリーズ終盤、合戦シーンのスケールアップによって1シーズンの放送話数を従来の10話から減らしたように、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』もシーズン2に入って全8話へと短縮された。血と炎で彩られた殺戮の人類史そのものである原作小説には、簡潔な構成ながら読む者を圧倒する荘厳な世界観があり、原作読了済みのファンとして言わせてもらえばあと2シーズンで語り終えられるとは到底思えない。翠装派が三頭市(トライアーキー)と同盟を結んだことで(原作では1行しか書かれていない交渉劇を第8話は延々と水増ししている)、戦火は海上へと拡がっていく。ドラゴンが何頭も空を舞う合戦に次ぐ合戦の戦記小説を、現在のハリウッドの懐事情でそう容易く再現はできないだろう。

 シーズン2に入ってより顕著なのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』と比べたショーランナーの胆力の差だ。「せめてレッドウェディングだけでも映像化できれば」とシリーズを始めたデヴィッド・ベニオフ自身が原作の強力なファンダムであったことはもちろん、彼自身もまた『25時』(スパイク・リー監督による映画版も自ら脚色)という傑作を上梓した小説家であったことは、『ゲーム・オブ・スローンズ』成功の1要因だったと言える。毎シーズン終盤に一大スペクタクルを配置するなど、D・B・ワイスとベニオフのコンビには原作を熟知した書き手ならでは巧みな構成力があった。それでいて原作小説を追い抜いてからはただ駆け足に物語を終えことしかできなかったところに、原作者ジョージ・R・R・マーティンの非凡さがある。

 また、原作『炎と血』の特殊な構造も『ゲーム・オブ・スローンズ』と『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の大きな違いだ。後世の学匠が著した歴史書という体裁の『炎と血』は、一般的な物語の形式を取っていない。そのため、『ゲーム・オブ・スローンズ』よりも遥かに自由度の高い脚色が可能となっているが、シーズン2を観る限りではこの余白を持て余している。ハレンの巨城(ハレンホール)に囚われたデイモン(マット・スミス)の迷走をはじめ、原作に書かれていないプロットラインの多くは時間稼ぎとしか機能しておらず、ほとんど初稿のように見受けられる会話も少なくなかった。リミテッドシリーズ全盛の昨今、私たちが大河ドラマ特有の遅さにチューニングできなくなっていることもあるだろうが、今後のシリーズ継続は入念な脚本開発が必要だ。

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