アニメスタジオのここが知りたい!

Production +h 本多史典が向き合う“業界の課題” 「デジタルやAIの力も使う必要がある」

 アニメスタジオに潜入し、スタッフへのインタビューを通してそのスタジオが持つ“独自性”に迫る連載「アニメスタジオのここが知りたい!」。第3回となる今回は、代表取締役社長である本多史典の目線から「Production +h.」の魅力を掘り下げていく。

 磯光雄監督、15年ぶりのオリジナルアニメ『地球外少年少女』、そして浅野いにお原作の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下、『デデデデ』)と立て続けに、ハイクオリティなアニメを送り出した新興アニメスタジオ、Production +h.(以下、プラスエイチ)。

 2020年のコロナ禍真っ最中に誕生したこのスタジオを率いるのは、Production I.G出身の本多史典氏だ。「新しいスタジオを立ち上げるなら、これまでできなかったことに挑みたい」という彼に、業界の抱える課題にいかに取り組み、新たなアニメスタジオのあり方を模索しているのか、その展望を語ってもらった。(杉本穂高)

新スタジオで独自のワークフロー確立を目指す

本多史典

――本多さんがプラスエイチを立ち上げた動機は『地球外少年少女』の制作を実現させるためだったとお聞きしていますが、一度スタジオを作ったからには、その後も運営していく必要があります。どう運営されていこうと考えておられるのかを今日はお聞きできればと思います。

本多史典(以下、本多):『地球外少年少女』を作るために立ち上げたことは事実ですが、継続して作品制作を行うなら、今まででやれなかったことを積極的にやろうと思っていました。新しいテクノロジー、いわゆるプラグインなどの開発も含めて、独自のワークフローを組めるようなシステムを作ってみようというのが、会社を継続させるモチベーションになっています。それだけにとどまらず、クリエイターに対してより良い環境を作るためにもできることがあるんじゃないかというのが、大きな動機になっています。

作業ルームに置かれた『地球外少年少女』の立て看板

――今までできなかった新しい試みを実現していく、クリエイターの環境を良くしていくための仕組み作りと2つの柱があるんですね。具体的にはどうやっていくのでしょうか?

本多:例えば、進行表というものを制作進行が使うんですけど、僕が以前所属していた会社には独自のアプリケーションがあるんですね。それにはいい部分もあるんですけど、自分向けにカスタマイズできずリアルタイムに共有と閲覧ができない問題もあったので、ウチではGoogleスプレッドシートでスタッフにリアルタイムで共有できるようにしています。

――なるほど。

本多:予算表の作り方も会社によって違います。例えば予算の25%を管理費などで抜いて、残り75%で制作する場合、制作期間が伸びてそれでは足りなくなると赤字と言われる。残業代等の人件費や電気代などの管理・維持費は毎月変動するので、そういうものもリアルタイムに予算表に実績として反映できるシステムを作っています。こういう努力で今までよりも正確な見積りや実行予算表へのフィードバックが出来るようになり、クライアントとの交渉材料にもできるようにしています。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』設定画

プラスエイチの育成の取り組み

――もう一つの柱、クリエイターの環境や人材育成について、プラスエイチはどんな取り組みをしているんですか?

本多:他社もやっているオーソドックスなことですが、ベテランの師匠をつけて一人前になるまで面倒を見る、「徒弟制度」のようなものをやっています。弊社だと実績ある現役バリバリのベテランスタッフが率先してやってくれています。制作進行に関しては、育成するのがすごく難しいです。できる人は放っておいても大丈夫なんですけど、できない人に対してどうアプローチするのかが問題。「ここがダメなんだけど、直せる?」とアプローチして、これができないと続けるのは難しいよと伝えることもありますシビアな面はありますけど、アニメーターの「徒弟制度」でも同じことは起きていると思いますし、どこの会社も苦労している点だと思います。

本多史典

――プラスエイチが創業したのは2020年ですからコロナ禍の真っ最中でしたよね。「徒弟制度」を組むのは大変だったのでは?

本多:『地球外少年少女』の時はさすがにそれどころじゃなかったので、それが終わった後から徒弟制度を導入しました。文化庁事業の「あにめのたね」の短編制作で徒弟制度の枠組みを整えて、『デデデデ』制作時には、原画試験を受けた若手が今は貴重な戦力になっています。

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