『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』サブプロットがようやく合流の兆し 注目の次世代キャラも

#ハウス・オブ・ザ・ドラゴン 王都(キングズ・ランディング)にクリストン・コール(ファビアン・フランケル)率いる討伐軍が凱旋した。彼らは黒装派のドラゴン“メレイズ”の首級を引き回すが、民は歓呼の声どころか一様に不安げな顔を浮かべる。内戦が始まってからというもの食料物資は不足し、生活は困窮。そんな最中、神に近い存在として崇められてきたドラゴンの死体は凶兆に他ならず、なにより黒装派の報復が始まれば王都が火に包まれることは明らか。人々からは非難の声すら上がるも、愚かなクリストンは自らの行いの意味がわかっていない。これでは市民の流出が始まるのも無理はないだろう。クレア・キルナー監督は今や手練れた群衆演出で、戦争に翻弄される庶民の顔を活写していく。シーズン折り返しの言わば“繋ぎ”に当たるエピソードだが、ここにはシリーズを観てきた者でもハッとさせられる新しい画作りが随所にある。

  軍馬と並び、目張りをされた車駕(しゃが)が赤の王城(レッドキープ)へ運び込まれていく。エイゴン(トム・グリン=カーニー)である。メレイズとの戦闘の最中、ドラゴンもろとも墜落した彼はまだ生きていた。炎で溶けた鎧は皮膚に焼き付き、意識も定かではない。アリセント(オリヴィア・クック)はエイモンド(ユアン・ミッチェル)の脇差に収まるヴァリリア鋼の短剣に、我が子が兄殺しにして王殺しであることを確信する。

 最大のドラゴンと中心的人物であったレイニス(イヴ・ベスト)を失い、黒装派も混乱に陥っていた。評議会は女であることを理由にレイニラ(エマ・ダーシー)の司令官としての資質を疑い、レイニラもまた声を荒げ、事態の収拾ができない能力不足を露呈してしまう(もっとも、ウェスタロスでは100年近く戦争が起きていないため、彼女が指摘するように誰も的確な戦況判断などできない)。第2話以降、実質的な女王の相談役に収まっているミサリア(ソノヤ・ミズノ)はどうやら戦術とは異なる策を進言した様子。ショーランナーは原作小説ではほとんど出番がないこのキャラクターを膨らませている。演じるソノヤ・ミズノはアレックス・ガーランド監督作品の常連で、『エクス・マキナ』から最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』まで全作品に出演。バレエダンサーとして培ったフィジカルパフォーマンスを主に見せてきたが、2019年のTVシリーズ『Devs』では主演を務め、本作でも旨味のある役どころを好演している。

 翠装派は王が危篤状態に陥ったことにより、摂政を立てる必要に迫られる。夫ヴィセーリスの晩年、父オットーと共に実質的な摂政を務めていたアリセントが名乗りを上げるも、評議会は戦時下であることを理由にこれを却下。それが能力の如何ではなく、女であることを理由としているのは明らかだろう。満場一致でエイモンドが摂政に選出される中、屈辱にまみれたアリセントは感情を押し殺し、事の成り行きを凝視する。彼女を長回しで映したこの場面は、本シリーズには珍しい役者本位の演出で、同世代最高の演技派オリヴィア・クックの実力を十二分に堪能することができる。かくして原作小説『炎と血』によれば以後、エイモンドは「王土の守護者にして摂政王子」を名乗る。「この冠、兄者よりもオレの方が似合うではないか」という名セリフがテレビシリーズ版では口にされないのが惜しい。

関連記事