『アイのない恋人たち』が呼び起こす深い共感 福士蒼汰らが考えるそれぞれの“アイ”とは

『アイのない恋人たち』が呼び起こす深い共感

 スマートフォンやSNSの普及により、誰とでも簡単に繋がれるはずの現代。しかし、その気軽さとは裏腹に、誰かと心から分かり合うことの難しさを多くの人が感じている。そんな今を生きる人々の恋愛や人間関係を繊細に描いたドラマ『アイのない恋人たち』のBlu-ray BOXが、7月3日に発売される。

 本作が放送されたABCテレビ・テレビ朝日系の日曜22時枠では、これまでにも実力派脚本家たちによる秀作が並んできた。岡田惠和の『日曜の夜ぐらいは...』、野島伸司の『何曜日に生まれたの』、浅野妙子の『たとえあなたを忘れても』など、いずれもオリジナリティあふれる作品として高い評価を受けてきた実績がある。

 そして2024年1月期を飾ったのが、脚本家・遊川和彦による『アイのない恋人たち』だ。遊川は1990年代に『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)、『魔女の条件』(TBS系)などの大ヒット作を生み出し、2000年代には『女王の教室』(日本テレビ系)、2010年代には『家政婦のミタ』(日本テレビ系)で社会現象を巻き起こすなど、時代を超えて人々の心を掴み続けてきた希代のヒットメーカーである。彼が描く7人の男女が織りなす恋愛群像劇は、現代を生きる私たちの姿を映し出し、どこか共感を呼ぶ物語となっている。

 また、作品のタイトル『アイのない恋人たち』には、「愛」「見る目(eye)」「自分(I)」という3つの“アイ”の意味が巧妙に織り込まれており、登場人物たちはそれぞれがこの“アイ”の欠如に悩みながら日々を過ごしている。主人公・久米真和(福士蒼汰)は、33歳の売れない脚本家。夢と現実の狭間でくすぶる日々を送る姿を、福士が見事な演技力で体現した。特に、心の奥底で「愛(LOVE)」を求める真和がマッチングアプリを通じて繰り返す空虚な関係性の描写は秀逸だ。

 皮肉にも、インターネットの便利さが人々の孤独感や疎外感を助長させることもある。そんな現状を象徴するかのような、真和が発する「スマホのおかげで何でも簡単になったはずなのに、人と繋がるのは、なんでこんなに難しくなったんだろう」というセリフは、多くの視聴者の心に刺さったのではないだろうか。各話の重要な場面で、福士の繊細な演技が、この複雑な現代の恋愛事情と人々の葛藤を鮮やかに映し出している。

 真和を取り巻く人物たちもまた、それぞれが“アイ”の欠如に悩む魅力的なキャラクターだ。

 真和の高校時代の同級生である淵上多聞(本郷奏多)は「自分(I)」を見失ったサラリーマン、郷雄馬(前田公輝)は「見る目(eye)」のない公務員として描かれる。今村絵里加(岡崎紗絵)は、恋愛を諦めかけている31歳のブックカフェ経営者として共感を呼ぶ存在感を示し、近藤奈美(深川麻衣)や冨田栞(成海璃子)との恋愛観の違いもリアルだ。さらに、真和の元恋人である稲葉愛(佐々木希)が物語に登場し、その複雑な過去が現在の人間関係をかき乱す要素となっている。

 これらの登場人物たちは、現代社会特有の恋愛観の歪みや根深い家族問題など、それぞれが抱える「重荷」と向き合いながら生きている。彼らが偶然出会い、互いに触れ合い、真の愛を見出そうともがく姿は、リアリティに満ちていた。ドラマを通して7人の成長を見守るうちに、この3つの“アイ”が持つ深い意味と、それらは切り離されたものではなく、絶妙なバランスで絡み合うものだと気付かされる。実際に多くの視聴者が、自分自身の人生や関係性を振り返るきっかけを得たのではないだろうか。

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