『虎に翼』武田梨奈が仕掛ける演技合戦 元山すみれの“堂々たる存在感”が大庭家をかき乱す

 朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)にて最初のヒロイン・安子の祖母に扮していた鷲尾真知子が絵に描いたような厳格な姑を演じ、見津賢が演じる大庭家の長男にして弁護士の徹太は、相変わらずどこか他人を見下したところがある。堀家一希が演じる次男の徹次は戦争の後遺症を抱えているようで、本田響矢が演じる三男の光三郎だけが母の味方らしい。梅子はかつて大庭家から逃げ出したことがあるから、この場にいるのはなんとも居心地が悪いだろう。さらにここに、武田が演じるすみれが堂々と存在していたのである。

 一口に「大庭家(と関わる人物)」といっても、そこにまとまりはない。一人ひとりの個性が非常に際立っている。それぞれの立場からの譲れない主張が彼ら彼女らにはあるのだ。しかしお芝居としては、他者の言動を無視することなく、ときに受け止め、ときに反発し、ときにいなさなければならない。これらのシーンは長くはないが、各キャラクターたちの感情が複雑にうねり、それを体現する俳優たちのぶつかり合いによって、かなり見応えあるものになっているのだ。「面白い……」と唸らずにはいられない演技合戦が展開しているのである。

 ここでもっとも自由度が高いのが武田である。彼女は大庭家の外側で生きてきた人物であり、ほかの者たちと違ってある種の文脈のようなものから切り離された存在だ。彼女がどう遊ぶ(=演じる)かによって、物語の盛り上がり度が変わってくることだろう。遺言書が有効なものではないとあっけなく認めたが、かなり肝の据わった女性だ。武田のセリフ回しや振る舞いを見るかぎり、相当にしたたかな人物なのだろう。彼女にもう一波乱くらい起こしてほしいものだが(梅子には申し訳ない……)、果たしてどうだろうか。

武田梨奈主演『ワカコ酒』S7放送決定 「ドラマとリアルが交差する感動を味わえました」

武田梨奈が主演を務める連続ドラマ『ワカコ酒』のSeason7が、7月3日よりBSテレ東、BSテレ東4Kにて放送されることが決定し…

 『ワカコ酒』シリーズ(2015年〜/テレビ東京系)で知られる武田といえば、アクションに定評のある俳優である。幼い頃より続けてきた空手が初主演映画『ハイキック・ガール!』(2009年)につながったほど。つまり、彼女は身体の扱いに長けている。

 もちろん、これまでの物語の流れから、『虎に翼』にアクションシーンが登場するとは考えられない。しかし、登場人物の日常生活における所作はすべて、アクションだということができる。表情の変化だってそう。しかも身体の扱いに長けている者は、それが発話法にも生きたりするものだ。個人から生まれるものは何もかも、当人の身体とつながっている。これが武田梨奈にとって初めての朝ドラ。すみれ再登場の際にはそのあたりに注意を向けてみたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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