ヒット作は社会を映す鏡? 『ザ・ボーイズ』など重くシリアスな海外ドラマが増えているワケ

深刻化する社会問題を反映した作品の増加

 シリアルドラマの傾向を見てみると、それらがサスペンスやスリラーにジャンル分けされる作品だということがわかる。また、その内容は現在の、特にアメリカの、社会問題と密接にリンクしている。

 『24』シーズン1が放送されたのは2001年11月から。奇しくも9.11が発生した年、大統領候補暗殺計画を阻止せんとするテロ対策ユニットの活躍を描いた同作は、熱狂的に受け入れられた。シーズン1はゴールデングローブ賞で主演男優賞(キーファー・サザーランド)を受賞し、その後、バイオテロとの闘いを描いたシーズン3で作品賞と主演男優賞の両方を獲得している。2006年の第58回エミー賞では、大統領暗殺から空港占拠・神経ガス散布テロを描いたシーズン5がシリーズ初の作品賞を受賞。そのほか主演男優賞をはじめとする5部門を制覇した。シーズンを重ねてもそのクオリティを保った同シリーズは、イラク戦争終結から3年後の2014年に終了した。

『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』©︎2017 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions LLC. All Rights Reserved. ©︎2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

 2017年から放送が開始された『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017年〜/以下、『ハンドメイズ・テイル』)は、第69回エミー賞で配信作品として初の作品賞を受賞する快挙を成し遂げた。マーガレット・アトウッドのディストピア小説を原作とした同シリーズは、キリスト教原理主義の独裁国家ギレアド共和国となったかつてのアメリカで、「侍女」として政府高官の子供を産む役割を強要された主人公ジューン(エリザベス・モス)が、離ればなれになった最愛の娘との再会、そしてギレアド脱出を目指してレジスタンスに身を投じていく物語だ。本作が大ヒットとなったのは、同年にドナルド・トランプが大統領となり、アメリカの保守化や差別主義がまかり通る世の中になりつつあったことに、多くの視聴者が危機感を抱いていたからだろう。

 先述した『ザ・ボーイズ』(2019年〜)も、腐敗したヒーローのなかでも最強のホームランダー(アントニー・スター)が、いかにも染めた不自然なほどの金髪で、アメリカ第一主義を掲げるなど、ときの大統領に重なる部分が多くある。

配信サービスの普及でビンジウォッチングが主流に

 シリアルドラマが人気を獲得した背景として、配信サービスの普及は見逃せない。配信サービス大手のNetflixでは、オリジナルシリーズを1シーズン一挙配信するのが通例となっている。視聴者を離さないためには、続きが気になるシリアルドラマでビンジウォッチング、いわゆる一気見を促すのが手っ取り早い方法なのだ。これまでに配信されたNetflixオリジナルで1話完結となっているのは『マスター・オブ・ゼロ』(2015年〜2017年)や『アンブレイカブル・キミー・シュミット』(2015年〜2019年)など、シットコムがメインだ。一方、『ハンドメイズ・テイル』と同年にエミー賞にノミネートされたNetflix作品には『ザ・クラウン』(2016年〜2023年)や『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年〜)など、人気作が並ぶ。これらの作品はハマると抜け出せない魅力があり、「あと1話だけ」を繰り返して結局最後まで観てしまったという経験がある人も多いのではないだろうか。

『一流シェフのファミリーレストラン』シーズン3©2024 Disney and its related entities

 このビンジウォッチングを狙った戦略のために、配信サービスオリジナル作品では、1話完結が主流だったコメディ作品もシリアルドラマ化していく。2023年の第75回エミー賞で作品賞を受賞した『一流フェフのファミリーレストラン』は、アメリカではHuluで1シーズン一挙配信されているし、同年にコメディ部門にノミネートされた8作品のうち、6作品が配信作品だ。リミテッドシリーズ部門にいたっては候補5作品のうちすべてが配信作品で、見事受賞を果たした『BEEF/ビーフ』(2023年)と、そのヒットで物議を醸した『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』(2022年)がNetflix作品となっている。Netflix以外の作品は必ずしも1シーズン一挙配信ではないが、それでも配信サービスの普及に伴って視聴環境が変わったことは間違いないだろう。

 2000年代以降、海外ドラマ、主にアメリカのドラマはシリアルドラマ化が進み、内容も世相を反映したダークなものになっていった。さらに配信サービスの普及で、ビンジウォッチングを促すためにコメディ作品でもシリアルドラマが増えている。このようにドラマのトレンドは変わっていき、視聴体験も変化してきた。しかし引き込まれる物語を一気に観る体験も、続きはどうなるだろうと次の放送や配信を楽しみに待つ体験も、どちらも魅力のあるものだ。近年は、それこそ配信サービスの普及によって、日本でも視聴できる海外ドラマが格段に増えた。これからどのような変化が起こるかはわからないが、より多くの魅力的な物語に出会えるのは間違いないだろう。

■配信情報
『ザ・ボーイズ』シーズン4
Prime Videoにて配信中
©Amazon MGM Studios

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