『虎に翼』はなぜ寅子の“厚かましさ”を描くのか 誰もが“自由”であることへの願い

『虎に翼』はなぜ寅子の厚かましさを描くのか

 寅子もまた、香淑と社会の関わりがこのままでいいとは思えないという点において愚直であり、まだはっきりしないながらも法律が好きなことは確かで、何かしら仕事をしなくてはいけなくなったとき、これまで勉強してきた法律を生かして稼ぎたいと思い、その実現のために体当たりしていくこともまた愚直である。純度の高さとは愚直と言い換えてもいいのではないだろうか。

 寅子が、直明(三山凌輝)を送り込み、家事審判所と少年審判所の合併に取り付けたのも、「正論は見栄や詭弁が混じっていてはだめだ。純度が高ければ高いほど威力を発揮する」という桂場の言葉にぴったりなのが直明だったと考えたからだ。

 家庭裁判所は無事発足し、これからの寅子の法律家としての活躍にも期待したい。

 ただし、これはいかがなものかと思ったのは、花岡の妻・奈津子(古畑奈和)への寅子の発言だ。

 「(花岡の真意に)気づいていたらなにか変わったかもしれないのにほんとうにごめんなさい」という第一声がまるで元カノマウントのようだと指摘する声がSNSで散見された。確かにそうも思える。寅子の物言いは、悪気はなく、むしろ真剣に花岡を救いたかったというやはり純粋な思いではあるが、このあと奈津子が、もし家族以外の者に説得できたら「やいちゃうわ」とやんわりと返したため、よけいに寅子の不遜さが際立つことになった。でもそれもそこから女のキャットファイトがはじまるわけではなく、いまの寅子はそういう思いが先走る不器用な人なのだというだけのことである。

 寅子の悪くいえば厚かましい、よく言えば積極的な態度は、朝ドラでは珍しいものではない。毎シリーズ、やや猪突猛進でまわりが見えていないヒロインの言動に、もう少し思慮深くあってほしいという意見がSNSで必ず出るにもかかわらず、描写が控えられることはない。そこには、誰もがやりたいことを自由にやる願いが込められているのだろう。

 よねのように男装することも、轟のように大好きだった友の死を思い切り悲しむことも、香淑のように異国の人と結婚することも、花岡のように法律を守って死を選ぶことも、多岐川のように法律を守って死ぬことを「バカ」だと悔しく思うことも、寅子のように裁判官になりたいとなりふり構わず行動することも、すべてその人の自由なのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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