『虎に翼』が視聴者に考えさせる“男女の差”とは何か 寅子の“契約結婚”は許される?

 寅子(伊藤沙莉)は司法修習生として雲野法律事務所で働き始めた。NHK連続テレビ小説『虎に翼』第7週「女の心は猫の目?」では、寅子の女心のみならず、花岡(岩田剛典)や優三(仲野太賀)ら、男たちのやるせない心情が描かれる。

 『虎に翼』はヒロイン寅子の“女はつらいよ”であるが、男もつらいよ、なのである。いまの寅子は仲間の思いを背負って弁護士として頑張らないといけないという焦りのあまり、殿方の気持ちを慮れていないのではないか。

 女性であるという理由で、寅子にはいっこうに弁護の依頼がなく、女性としてはじめて法廷に立つという栄光は、久保田(小林涼子)に先を越されてしまう。久保田は結婚し妊娠もし、妻として母として弁護士として活躍していることが世間的に注目されたのだ。

 おりしも、日中戦争が激化し、国力増強が求められている。女性も男性に代わってやれることはやることが期待され、とりわけ「産めよ増やせよ」と、結婚し子供を作ることが期待されていた。女性の登用は国の都合でしかない。その国を動かしているのは男たちなのだ。

 かねてよりいい感じに寅子と仲良くしていた花岡も社会に迎合する側に立つ。試験に受かっていよいよ裁判官になることになったものの、赴任先は故郷の佐賀。弁護士としてこれからと張り切る寅子に一緒に来てほしいとは言い出せず、自然消滅のようになって1年半。その間、花岡は別の女性と婚約を決めていた。

 わずか1年半、猫の目のように変わり身が早すぎると思うべきか、もう1年半、十分、時間は経ったと思うべきか。轟(戸塚純貴)もよね(土居志央梨)も花岡を責めるが、花岡の気持ちもわからなくはない。

 花岡が寅子に一緒に佐賀に来てほしいと言い出せなかったのは、寅子への思いやりもあるだろう。が、それよりも自分の仕事を優先する気持ちが大きかっただろう。彼にとっては、赴任先にどこでも来てくれて、自分の世話も、なんなら親の世話もしてくれる妻が必要だったのだ。寅子にはその可能性がないと切り捨てた。

 寅子には一言も報告がないままで(もともと不器用な性格ではあるからうまく言い出せなかったのだと思う)、たまたま東京に戻って来ているところに寅子とばったり再会して互いに気まずい。

 寅子はまだ結婚する気はなく、花岡の気持ちも深く理解できていなかったようだが、それでも花岡が婚約者を見つけていたことに少なからずショックを受ける。花岡には婚約者がいて、自分には相変わらず弁護の依頼がない。結婚してないと社会的に認められないことを痛感した寅子は、相手は誰でもいいから結婚することを決意する。

 10代の頃、結婚という制度は女性にとっては詐欺だと言い放ち、結婚しないつもりだった寅子が、急に方針を変えた。猫の目のように。こんなことなら、花岡と結婚しても良かったのではないかという気もしないではないが、あとの祭りである。

 結婚適齢期を過ぎ、女性初の弁護士という特殊な職業ということも手伝って、相手はなかなか決まらない。そこへ名乗りをあげたのは、優三(仲野太賀)だった。

 雨降って地固まるという感じで、やっぱり昔から寅子のそばにいて、見つめ支えてくれていた優三だよねえと視聴者的には思うが、花岡の気持ちに気づけてない寅子だから、優三の密かな自分への想いにも気づいていない。あくまでも社会的地位の確立のための契約結婚の相手として「この手があったか」と優三の申し出を喜ぶ。

 花岡の行動には、やはり男性は女性をアシスタントか何かのように思っているのだというやや悪印象も抱いてしまうのだが、寅子もまた同じではないか。仕事のために、優三と結婚するのだから。というような感想を抱かせるのは、視聴者の男女の差とは何かという思考を促そうとしているのかなと思う。

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