『猿の惑星/キングダム』は“映像で語る” 神話的名作の完全新作をIMAXで体感せよ

 2024年、とにかく劇場公開の話題作が多い。特に劇場の大画面で観ると圧倒的すぎて声が漏れそうになるような作品……いわゆる、“IMAX向け映画”だ。なかには大作だとしてもIMAXで観ることへの特別感が感じられない作品がある中で、今年はまだ上半期というのに、もう十分すぎるくらい“圧倒的な映像体験”なるものをしてきたように思う。しかし、甘かった。5月10日より公開中の『猿の惑星/キングダム』こそ、IMAXで観るべき大作だった。

 1968年に誕生した神話的名作『猿の惑星』。その衝撃的な設定とエンディングは公開から何年経っても色褪せない。その後もオリジナル映画5本、ティム・バートン監督によるリメイク、アンディ・サーキスが演じたシーザーが作品を導いたリブートシリーズなど、あらゆる物語が語られてきた。そして完全新作として公開された『猿の惑星 キングダム』は、VFX技術のクオリティに圧倒されつつ、新たな語り手によるストーリーテリングが興味深い爽快作である。

丁寧に描かれるキャラクター、それゆえの没入

 完全新作となる本作では、今からおよそ300年後の物語が描かれる。人間と猿の共存を望みながらも、最終的に戦うことを選ばざるを得なかった、リブートシリーズの主人公であるシーザー。仲間を安息の地に連れて行った彼の偉業は計り知れず、シーザーの亡き後も彼のことは伝説のように猿たちの間で語り継がれてきた。しかし、『猿の惑星/キングダム』の主人公は、シーザーや彼の戦いなどあまり知らされてこなかった村出身の若い猿ノアなのである。そして彼は、シーザーの名を借りて人間狩りをする独裁者プロキシマス・シーザーの部下たちに自分の村を破壊され、大切な家族と仲間を奪われてしまう。もちろん、シリーズに通底する「猿と人間の立場の逆転」という設定はありつつ、本作は猿と人間どちらかの当事者というより、彼らの対立を俯瞰する第三者の視点に立てるから面白い。私たちだって300年前の革命者のことはよく知らないし、誰かの都合が良いように捻じ曲げられた歴史を鵜呑みにしてしまう、という話もなんだかリアルである。

 猿が猿を恨み、復讐心を燃やす。そんな構図の中、ノアは高潔で賢いオランウータンのラカ、そして人間の少女ノヴァと出会ったことで他者から植え付けられた「差別主義」を払拭し始める。その彼の精神的な成長と、“猿と人間vs猿”になっていく展開によって、“人間”である私たち観客が主人公のノアに共感しやすいのも本作の良さの一つだ。とにかくキャラクターそれぞれに深みを持たせ、魅力的に描くことに成功している。そしてそれは彼らの細やかな表情……“演技”の素晴らしさがあってのことかもしれない。

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