『燕は戻ってこない』石橋静河の切実な叫び 第1話から浮かび上がった“女性の貧困問題”

 代理出産には、体外受精した受精卵を代理母の子宮に移植して妊娠・出産する「妊娠代理出産(ホストマザー)」と、代理母の子宮に人工授精で精子を注入して妊娠・出産する「伝統的代理出産(サロゲートマザー)」の2種類があり、理紀が持ちかけられたのは後者。元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とその妻・悠子(内田有紀)の子を産むサロゲートを依頼されるのだった。

 理紀とは対照的に、裕福で大きな窓から太陽の光が降り注ぐ明るい家に住んでいる草桶夫婦。基は不倫の末に再婚した悠子のことを愛しており、金と安心は満たされているが、彼らにもまた一線を越える理由がある。悠子は不育症と卵子の老化により、妊娠は難しい状況にあった。しかし、自分の血を引く子供を持つことを諦め切れない基は代理母を依頼する。母である千味子(黒木瞳)から子供を急かされており、表向きは「悠子と一生添い遂げるため」と謳っているが、腹の底が知れない彼にもまた何かしらの“欲望”があるのだろう。

 「腹の底から金と安心が欲しい」。理紀の切実な叫びが、静かな怒りを込める石橋の演技とともに胸に迫った第1話。今も日本のどこかで、彼女と同じ願いを抱きながら、恐怖と孤独に耐えている人が大勢いる。そして、その先に、金銭的に余裕のある夫婦が彼女たちに大金を払い、代理出産を依頼する未来があるのだ。

 「プランテ」日本支社の内装や代表である青沼のキャラクターはどこか浮世離れしていて、SF感も漂う本作。だが描かれているのは、多くの問題を抱える現代と、限りなく近い未来の狭間である。あまりにエグ味の強いストーリー展開に見終わった後はどっと疲れが押し寄せてくるが、このドラマが提示する他人事ではない問いと真剣に向き合っていきたい。

■放送情報
ドラマ10『燕は戻ってこない』(全10回)
NHK総合、BSP4Kにて放送
総合:毎週火曜22:00~22:45放送、毎週木曜24:35~25:20再放送
BSP4K:毎週火曜18:15~19:00放送
出演:石橋静河、稲垣吾郎、内田有紀、黒木瞳、森崎ウィン、伊藤万理華、朴璐美、富田靖子、戸次重幸ほか
原作:桐野夏生
脚本:長田育恵
音楽:Evan Call
制作統括:清水拓哉、磯智明
プロデューサー:板垣麻衣子、大越大士
演出:田中健二、山戸結希、北野隆
写真提供=NHK

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