『虎に翼』伊藤沙莉が法律に見出した希望 「法廷に正解はない」穂高教授の言葉が示すもの

 『虎に翼』は二層構造でできている。寅子が弁護士になるために奮闘するストーリーは、男女間の不平等が背景にある。不平等をもたらしているのは当時の法制度である。私たちが主人公の言動に一喜一憂し、感情移入するドラマの基底には、網の目のように張り巡らされた法律のレイヤーがあり、法律を読み解くことは、当時の女性たちが何と闘っていたかを知るうえで欠かせない。

 六法をめくる寅子はある条文に目がとまった。戦前の民事訴訟法185条は自由心証主義を規定する。自由心証主義は、弁論の全趣旨を考慮して、事実認定と証拠の証明力の評価を裁判官の自由な判断にゆだねる裁判の原則で、現行民事訴訟法では247条で規定される。裁判官は法律にのっとって判決を下すが、当事者が提出した主張と証拠をどのように評価するかは個々の判断に任される(例外もある)。

 「法廷に正解はない」と穂高が言ったことは、このことを指すと思われる。要件を満たせば同じ効果が発生するのが法律のルールで、そのことから一定の結論が導かれる。一方で、個別の事情を考慮すると、必ずしもルール通りに裁くことが適当と言えないケースもある。そのような場面で裁判官の自由心証が果たす役割は大きく、寅子はそこに希望を見出した。妻からの着物返還請求事件で、裁判長の田中(栗原英雄)は一人、熟考している様子だった。未来を担う法律家の卵たちの前で、裁判長はどんな判断を下すだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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