主人公はNY? 『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』のノスタルジックな内容を考察

 大きな見どころとなっているのが、この下水から飛び出して市街を混乱に陥れる龍のゴーストとの、迫力あるカーアクションである。活劇としての楽しさだけではなく、あの消防署から出動したバスターズがガジェットを駆使してゴースト捕獲のために躍動するという、多くの観客が前作から望んでいた、オリジナルのスタイルが復活していることに、大きな意味があるだろう。さらにそこに、ニューヨーク全体の脅威に際して再びオリジナルのバスターズが集結する。これが実現していることこそが、本作の存在意義であると考えられる。

 同時に描かれるのが、大人として扱ってもらえないフィービーの悩みや、逆に加齢からゴースト関係の仕事からの引退を促されるレイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)の鬱屈とした感情だ。思えば、オリジナルの第1作を劇場で楽しんでいた世代の下限は40代半ばであり、当時の現役世代はもう60歳以上である。スタンツ博士の境遇や寂しい気持ちは、まさに往年のファンにも共通するところがある、切実なものだ。

 本作は、スタンツ博士やウィンストン・ゼドモア(アーニー・ハドソン)、ピーター・ベンクマン博士(ビル・マーレイ)、ジャニーン(アニー・ポッツ)が再び活躍する姿を見せることで、上の世代の観客へのエールを送っている。そこにゲイリー(ポール・ラッド)らミドルエイジの家族の問題や、フィービーらに託された思春期の感情を描いていることで、ほとんどの年齢層への喚起をカバーしていこうとする本作の狙いが見てとれる。

 クメイル・ナンジアニ演じる、先祖から受け継いだ骨董品を売ろうとしたことでニューヨークが滅びの危機を迎えることになってしまうトラブルメイカー、ナディームのキャラクターは、そういった世界観にまた異なる彩りを添えている。コメディアン出身のナンジアニと、ビル・マーレイ、ダン・エイクロイドとの掛け合いが見どころなのはもちろんのこと、同じくボンクラな息子として見られているトレヴァー(フィン・ウルフハード)と意気投合してしまうところも笑えてしまう。

 ただ一方で、本作に与えられた新要素が、そのあたりにとどまってしまっているのも確かなことだ。ゴーストの表現を含め、多くの場面では往年の雰囲気の再現に終始して、昔を懐かしむ内容で大半が占められている印象が強いといえる。ニューヨークが舞台になっているのは嬉しいことだが、その分だけ前作以上にノスタルジックな要素が目立つ作品になってしまっているといえよう。

 無論、それが望まれているのなら提供することに不思議はないのだが、もともとの『ゴーストバスターズ』が、巨大「マシュマロマン」などに代表される、豊かな発想がつめ込まれた“新しい娯楽作品”であっただけに、ノスタルジーにフォーカスした内容が、果たして『ゴーストバスターズ』の本質を突いたものであるのかという点には、疑問を覚えざるを得ないところもあるのだ。

 とはいえ、あの消防署の前に、ニューヨーク市民たちが大勢集まって、大衆の声が市長をも動かしていくといった場面には、やはり心を動かされるものがある。本作は群像的な描き方がなされ、明確な主人公が設定されていないように感じるが、強いて言うならニューヨークそのものが主人公であり、そこで生きる人々、生きた人々の“魂(ゴースト)”が表現されていると考えられるのである。

■公開情報
『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』
全国公開中
監督:ギル・キーナン
製作:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン、ギル・キーナン
出演:ポール・ラッド、キャリー・クーン、フィン・ウルフハード、マッケナ・グレイス、クメイル・ナンジアニ、セレステ・オコナー、ローガン・キム、ビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、アーニー・ハドソン、アニー・ポッツ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.ghostbusters.jp
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/Ghostbusters_JP

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