『ベルグレービア 新たなる秘密』は時代劇なのに新しい 入り交じるロマンスとミステリー

 ひときわ目を引くのは「ヨーロッパ一番のお金持ち」と評判の未亡人、エタニャック侯爵夫人。高名な投資家たる彼女は、女性禁止の紳士クラブにも「男装して行く」気概を宣言するパワフルな人物だ。このエタニャック夫人が、迷えるクララに「自分の人生を生きろ」と教える師匠のような存在となっていく。

 しかし、ものごとはそう簡単にはいかない。おおむねの登場人物が上流階級ではあるが、19世紀だから、今より個人の権利が制限された社会だ。たとえば、社交界の名士ロチェスター公爵夫妻は、人柄は良いものの、病を抱える長男について煩悶している。妻は子どもを愛しているが、夫のほうは男児が外で発作を起こそうものなら「家名の恥」だとして、息子を遠地の療養に行かせることを検討している。

 そんなロチェスター家のかかりつけ医、エラビーも食わせものだ。進歩主義者である彼は、世間知らずのクララを外の世界へと導いていく。

 女性たちも一枚岩ではない。たとえば、クララが新たな世界を知っていく一方、侍女のデイヴィソンはお硬めで、エラビーと接近する主人公に不倫疑惑を抱く。キャラクターそれぞれの思惑が交差していくミステリーこそ『ベルグレーベア』の面白さと言えよう。

 基本的に予習はいらない作品だが、知っておけば面白い情報もある。それは、やはり史実との関係。

 クララが交流することになるエラビーの仲間たちは、有色人種や芸術家がまじわる進歩的な人々だ。ここで、かすかに社会運動の話題もでてくる。エピソード3での会話の場合、作中と同じ1870年代に起こったエッピングの「人民の森」運動を指していると推測できる。

 産業革命期のロンドンでは、商工業の発達により、たくさんの労働者が流入し、土地の価値も上昇していた。貴族や地主は同都市の自然地帯をどんどん住宅にしていき、公共の憩いの場を奪われた一般市民たちが、それらの私有地化に反対。1871年、地主に囲い込まれたエッピング森林に多勢で侵入するデモを行って警察と激突した。結果、イギリス初の「一般市民が公共の公園や自然地帯で余暇をすごす権利」が法的に認められることとなった。

 このエッピング森林法は、長らく政治家や弁護士の功績として伝えられてきたという。しかし、現実には『ベルグレービア 新たなる秘密』が描いたように、100人をこえる一般市民あってこその運動だった。こうした激動期の歴史的背景を意識して観ると、よりエキサイティングな作品になるだろう。

■配信情報
『ベルグレービア 新たなる秘密』
スターチャンネルEXにて配信中
BS10スターチャンネルにて、6月放送
原作・製作総指揮:ジュリアン・フェローズ
脚本・製作総指揮:ヘレン・エドムンドソン
監督:ジョン・アレクサンダーほか
出演:ハリエット・スレーター、ベンジャミン・ウェインライト、エドワード・ブルーメル、トビー・レグボ、ハナ・オンスロウ ほか
©Carnival Film & Television Limited 2023.

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