映画『舟を編む』が特別な実写化作品である理由 スクリーンに刻まれた“時間”の尊さ

 しかしそのなかにも確かな熱量が、はっきりとスクリーンから見て取れる。生きた人間が、生きた言葉を生き生きと生かしていく。辞書の完成が近付いたタイミングで突如として発見された重大なミスを即座に修正し、同じミスをしていないか確認作業に明け暮れる。ひとつ足りともミスが“許されない”のではなく、辞書を作る彼ら自身が、辞書というものの信頼のため、そして言葉に対する愛情と敬意を成就させるために、ひとつ足りともミスを“許していない”。その一連は紛れもなく“お仕事ドラマ”でありながら、限りなく精密な“スポ根”のようでもある。

 辞書でも映画でも、我々の多くは常にその完成形を手にすることになる。その裏にどんな作り手の想いが込められているかは、作品に表出したものから読み取るか、なんらかの補完をもって初めて知ることができる。いかなる作品も多くの人が人生を賭して向き合ったものだという、当たり前なのに見落とされがちなことを、この映画は静かな熱量で伝えてくれる。それはまさに、原作小説の冒頭数行の、読者を一瞬で言葉の世界への旅路に惹き込んだあの高揚感がそのまま2時間13分の映画として具現化されているということだ。

 10年の歳月を経て我々がその時間のいくらかを体感したことで、この映画のさらに深部を享受することになる。それでもおそらく、また長い歳月をかけて見え方や捉え方、あらゆることが変わっていくだろう。それもまた辞書と映画のよく似た部分である。

■上映劇場一覧
・北海道 シアターキノ ※3月23日(土)~
・宮城県 MOVIX 仙台
・山形県 MOVIE ON やまがた
・東京都 109 シネマズプレミアム新宿(★)、MOVIX 昭島、Stranger
・千葉県 キネマ旬報シアター(★)※3月9日(土)~
・愛知県 ミッドランドスクエア シネマ(★)、刈谷日劇 ※3月15日(金)~
・大阪府 なんばパークスシネマ
・兵庫県 シネ・リーブル神戸
・京都府 アップリンク京都
・岡山県 岡山メルパ ※3月22日(金)~
・広島県 夢売劇場 サロンシネマ1・2
・福岡県 ユナイテッド・シネマ キャナルシティ 13
・熊本県 熊本ピカデリー
※★:35mmフィルム上映実施劇場
※上映劇場・期間は追加・変更になる場合あり。更新情報は以下をご確認ください。https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=funewoamu10

■劇場用パンフレット情報
『舟を編む』劇場用パンフレット(復刻版)
仕様:247mm×183mm(「大渡海」と同寸)、並製本、一部、“辞書”用紙採用(『大渡海』と同じ用紙)、表紙+本文(128頁)、数量限定
価格:2,000円(税込)
内容:
・インタビュー:(松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、伊佐山ひろ子、八千草薫、小林薫、加藤剛、石井裕也(監督)、三浦しをん(原作)、渡辺謙作(脚本)、藤澤順一(撮影)、原田満生(美術)
・辞書っておもしろい-『舟を編む』からはじめる、辞書ガイド-
・コラム:角田光代「言葉の力あり、映像の力あり」
・コラム:門間雄介「馬締が過ごした時代」
・コラム:藤井仁子「映画を編む」
・鼎談:辞書編集の現場から
・撮影日誌
・全シナリオ収録
・対談:黒住光 VS 中原昌也ほか

■公開情報
『舟を編む』
3月1日(金) より、2週間期間限定上映
出演:松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、宇野祥平、又吉直樹(ピース)、波岡一喜、森岡龍、斎藤嘉樹、麻生久美子、伊佐山ひろ子、八千草薫、小林薫、加藤剛
原作:三浦しをん『舟を編む』(光文社文庫刊)
脚本:渡辺謙作
監督:石井裕也
製作プロダクション:リトルモア、フィルムメイカー
特別協力:株式会社三省堂、三省堂印刷株式会社
配給:松竹、アスミック・エース
製作:「舟を編む」製作委員会
©︎2013「舟を編む」製作委員会
公式X(旧Twitter):@funewoamu0413

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