『エコー』はマーベルドラマの今後の指針になり得る傑作 予備知識ゼロでも心に響く理由

 マーベルのドラマシリーズ『エコー』が、1月10日からディズニープラスで全5話一挙配信された。映画に加えてドラマシリーズも展開されるようになったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)。「全てを観ておかないとついていけない」という焦燥感に駆られてしまっている方も少なくはないだろう。

 純粋に、単体作品として良いものが観たい。たとえば、「たくさんの登場人物や他作品との繋がりに翻弄されず、一人のメインキャラクターの物語にフォーカスしながら、ヴィランにも味わい深い背景があって、サイドキャラクターもモブにならず物語に対して良い存在感を発揮する。雑多な感じではなく、何か一つ芯の通った作品」が観たいと感じたとき、『エコー』はまさにピッタリの作品なのだ。

スタンドアローンで観られる作品として

 本作の主人公は、ドラマ『ホークアイ』でMCUに初登場した、エコーことマヤ・ロペス(アラクア・コックス)。耳が聞こえず、右足が義足である彼女は同作でも卓越した身体能力を発揮していたのが印象的だが、これまでのマーベルドラマの主人公、ワンダ・マキシモフやヴィジョン、ファルコンやウィンター・ソルジャー、ロキなどと比べると、タイトルになるキャラクターとしては、一見マイナーなチョイスのように思える。しかしそのおかげで、深みのある物語を届けることに成功したと感じる。本作は間違いなく、より地に足のついた“キャラクター主導”の作品なのだ。

 何より、大前提として他のドラマや映画を観なくても物語がわかりやすく、キャラクターへの理解が十分に深められる点が素晴らしい。つまり、本作だけを観ても十分ドラマとして楽しめる、というわけである。実際『ホークアイ』で描かれたこともマヤの視点でもう一度語られていたり、本作の“ヴィラン”となるキングピン(ヴィンセント・ドノフリオ)も予備知識ゼロでどんなキャラクターなのか理解できるほど繊細なストーリーテリングが施されていたりと、とにかく親切な作り方が好印象であった。

“無音アクションシーン”の秀逸さ

 さて、本作はジャンルで言えば“クライムアクション”と“ヒューマンドラマ”の融合といった具合で、オープニング映像も含め渋い雰囲気がある。そしてアクションに関しては、主人公が雷神や魔術師の類ではないため、そういった派手さを抑えながらも地に足のついた見応えのあるコレオグラフィーが印象的だった。動きがとにかく良いだけでなく、義足を生かしたアクションの見応えが抜群。そして何より、戦闘が始まる瞬間など本来なら背景の音楽が派手になってシーン全体を音で盛り上げる場面で、マヤの視点を体感するかのような“無音”に切り替わる演出もクレバーで素晴らしい。しっかりとバイオレンスなところも良い。

 また、本作は戦闘に限らず、乗り物アクションシーンでも見せ場を作っている。マヤは常にバイクに乗っていてカッコいいし、とある目的で走行中の貨物列車に飛び乗るシーンは彼女が生身の“普通の”人間だからこそ、ハラハラさせるものがある。実際に怪我もするし、マヤの痛みも感じられるのが良い。こういったハラハラ感は、スーパーパワーを当たり前に使うようなキャラクターたちが多いマーベルの作品の中では意外と感じづらく、貴重だ。そういった点で、本作は何から何まで“良質さ”にこだわった作品だと感じるのだ。

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