バカリズム、前人未踏の脚本家の領域へ 作詞家・松本隆に通じる“人間”への眼差し
国内外の数々の賞を受賞し、2023年を代表する名作となった『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が同年12月28・29日に一挙放送され、その周到な作劇に改めて絶賛の声が集まったが、明けて2024年1月3日に、同じくバカリズムが脚本を務める最新作『侵入者たちの晩餐』(日本テレビ系)が新春スペシャルドラマとして放送される。
本作は、家事代行サービス「スレーヌ」で働く平凡な女性、亜希子(菊地凛子)と恵(平岩紙)、そして恵の友人の香奈恵(吉田羊)が、「スレーヌ」社長・奈津美(白石麻衣)の自宅に侵入するところから物語が始まる。さらに、秘密を抱えた配達員・重松(池松壮亮)や、奈津美が暮らす高級マンションのコンシェルジュ・毛利(角田晃広)などを巻き込んで、予想もつかないヒューマンサスペンスが展開する。
最新作『侵入者たちの晩餐』も3人の女性の物語だが、バカリズムといえば『ブラッシュアップライフ』をはじめ、2017年のドラマ『架空OL日記』(読売テレビ)、2020年公開の映画『架空OL日記』、2021年公開の映画『地獄の花園』など、女性を主人公、主要人物に据えての、会話劇と日常描写のリアルさに定評がある。
たとえば、『地獄の花園』の主人公・直子(永野芽郁)が最大の敵勢力である「トムスン総務部」の全員をタコ殴りにしてやっつけた翌日に、社食で同僚と繰り広げる、こんな“くだらない”日常会話が実にリアルで、ギャップが凄まじい。
「炭水化物抜いてんだ?」
「でもジャガイモ食べてんじゃん」
「ジャガイモはオッケーでしょ」
「ジャガイモ炭水化物だよ」
「ジャガイモ野菜じゃん」
「野菜だけど炭水化物だよ」
『地獄の花園』はヤンキーOLたちの拳による派閥争い、『ブラッシュアップライフ』は人生を何回もやり直す「地元系タイムリープドラマ」、『架空OL日記』は“女装”をせずOLの制服を着ただけのバカリズムが主人公「私」を演じ、更衣室をキーステーションに同僚たちとの日常を描いた。いずれも荒唐無稽ともいえるアクロバティックな設定なのに、登場人物の「素の会話」があまりにも生々しくリアルで、観る者はどんどん物語の世界へと引き込まれてしまう。
この、日常と非日常、リアルとシュール、「あるある」と「ないない」の融合が、バカリズムの作家性といえるのかもしれない。ものの本によれば、脚本家の真髄は「発明」なのだそうだ。今まで他の誰も思いつかなかった設定、前人未踏のドラマツルギーを作り出すのが脚本家の仕事。その点においてバカリズムは真の脚本家といえる。
脚本の仕事も、芸人、MCとしてテレビへの出演も絶えることなく、これほど多忙にもかかわらず、休むことなく毎年単独ライブを打ち続け、新ネタを書き下ろしているバカリズム。芸人としての、こうした積み重ねと研鑽も、『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で歴代最多優勝の成績を誇る「大喜利力」も、左脳が発達しすぎて右脳を圧迫するほどに止められない論理的思考(※)も、すべてバカリズムが生み出すドラマや映画の“養分”となっている。