『劇場版 SPY×FAMILY』で“超人”となったヨル 『ニキータ』など名作の女殺し屋と比較
だが今作のヨルさんも、十分に“人外”であった。
飛行中の飛行戦艦の機体上を走り回る上に、タイプFとの戦闘時の鉄骨から鉄骨への跳躍力は、人間の範疇を超えている。
テレビ版ではギリギリ人間枠に収まっていたヨルさんだが、この劇場版において、めでたく“超人枠”に昇格した。
その戦いは、『週刊少年ジャンプ』黄金期の名作たち、『ドラゴンボール』や『北斗の拳』を彷彿とさせるレベルであり、かつてそれらの作品に熱狂したお父さんたちの心をも、燃え上がらせたのではないか。
「フィジカルでかなわない相手に頭脳作戦で勝つ」という結末も、ジャンプ的バトル漫画の伝統を踏襲している。そのカギとなるのが“たまたま持っていたアイテム”という点も、昔のジャンプ漫画でよく見たパターンである。しかもそのアイテムは、「夫役のロイドさんからのプレゼント」なのだ。シャレている。
これが令和のジャンプ漫画かと。筆者が読んでいた平成(下手すりゃ昭和)のジャンプ漫画の伝統を踏襲しながらも、時代に合わせて洗練されたものとなっているではないか。
そのアイテムが何なのか。筆者の知る限り、かつて一度もバトル漫画などで武器として使用されたことのない小道具である。それを確認するだけでも、この作品を劇場で観る価値はある。
『ニキータ』を例に挙げたように、「女殺し屋もの」には名作が多い。中でも、この『SPY×FAMILY』と似た設定の作品に、『シュリ』と『Mr.&Mrs.スミス』がある。
どちらも主人公である女殺し屋は、素性を隠して敵国(もしくは敵対組織)の男性と恋に落ちる。
特に1999年の韓国映画である『シュリ』は、「北朝鮮の女性工作員と韓国の諜報員の恋」である。架空の国同士が舞台である『SPY×FAMILY』に比べても、さらにハードな設定だ。最終的には正体がバレ、それでもふたりは愛し合いながらも悲劇的な結末を迎える。終始、悲壮感に溢れている。
一方、2005年のアメリカ映画である『Mr.&Mrs.スミス』の場合、お互いの正体に気づいたふたりは、お互いの組織の掟に従い、壮絶な殺し合いを始める。延々殺し合いという名の夫婦喧嘩を繰り広げた末に、なぜか元鞘に納まり、今度は夫婦揃ってお互いの組織の壊滅に乗り出す。終始、脳天気感に溢れている(ブラピとアンジーだし)。
この2作品は共に似たような設定でありながら、作品全体の空気感も、演者のトーンも、その結末も、まるで真逆である。
そして、今作『SPY×FAMILY』は、この両作の要素を併せ持っている。
『劇場版 SPY×FAMILY』はアニメを超えた究極の完成度 劇場版ならではの“お楽しみ”も
“完璧な劇場版”というものを観たければ、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』を観に行こう。原作漫画から読んで…
このかりそめの夫婦にも、いつかは終わりが来る。お互いの正体に気づいた時、ふたりの行く末は、喜劇か。それとも悲劇か。どちらにせよ、最後まで観届けたい。
できることなら、映画館のスクリーンで。
■公開情報
『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』
全国公開中
原作・監修・キャラクター原案:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載)
出演:江口拓也、種﨑敦美、早見沙織、松田健一郎ほか
監督:片桐崇
脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン:嶋田和晃
サブキャラクターデザイン:石田可奈
総作画監督:浅野恭司
音楽プロデュース:(K)NoW_NAME
音響監督:はたしょう二
アニメーションアドバイザー:古橋一浩
制作:WIT STUDIO×CloverWorks
配給:東宝
製作:「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会
©2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 ©遠藤達哉/集英社