『屋根裏のラジャー』大人を揺さぶるメッセージ性 母親・安藤サクラのリアリティが鍵に

 そんな大人にも訴えかける要素が盛り込まれている『屋根裏のラジャー』では、大人を象徴するキャラクターとしてアマンダの母・リジーが登場する。リジーは一人でアマンダを育てる母親として描かれており、彼女の声を演じるのは『怪物』や『ゴジラ-1.0』などの作品でも安定した母親役を演じている安藤サクラ。安藤の演技も相まって、良い意味で、どこにでもいるような母親のリアリティが感じられるリジーだが、もちろん彼女にはイマジナリが見えない。だからこそ、リジーはラジャーを“嘘の存在”だと思っている。

 ところが、リジーの心の奥深くにも、子どもの頃に「冷蔵庫」と名付けた特別な友だちの記憶が静かに眠っている。作中では、リジー自身、その存在を忘れ去っているように描かれているが、興味深いことにアマンダの家には「オーブン」と家電の名前を付けられた猫がいる。その様子は、まるでリジーが深く無意識にその記憶を守り続けているかのよう。忘れられたようでいながら、実は心の片隅に残っているもの。この絶妙な感覚の描写こそが、他の「子どもにしか見えないもの」を扱う作品とは一線を画し、大人になった私たちの感受性を優しく揺さぶる。

 サンテグジュペリの『星の王子様』には「本当に大切なものは目に見えない」という有名な言葉があるが、『屋根裏のラジャー』のキャラクターが繰り返し伝えているのは「人は見たいものしか見えない」というメッセージだ。私たちに見えている世界は、必ずしも真実とは限らない。それでも、「信じたいものは信じる価値がある」という力強いメッセージが、この作品には込められている。

 子どもが大人になるにつれ、忘れていくもの。それはもしかすると大人になった私たちでも、よく目を凝らせば、再び見出すことができるものなのかもしれない。スクリーンの向こうで待っている“私たちのラジャー”を、今こそ迎えに行こうではないか。

■公開情報
『屋根裏のラジャー』
全国公開中
声の出演:寺田心、鈴木梨央、安藤サクラ、仲里依紗、杉咲花、山田孝之、高畑淳子、寺尾聰、イッセー尾形 
原作:A・F・ハロルド『The Imaginary』(『ぼくが消えないうちに』こだまともこ訳・ポプラ社刊)
監督:百瀬義行
プロデューサー:西村義明
配給:東宝
制作:スタジオポノック
製作:「屋根裏のラジャー」製作委員会
©2023 Ponoc
公式サイト:www.ponoc.jp/Rudger
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/StudioPonoc
公式Instagram:https://www.instagram.com/ponoc_jp

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