『いちばんすきな花』4人と美鳥の“答え合わせ” “嫌いなポジティブワード“と言葉の奥深さ

 しかし、その希望を知ったからとはいえ、今まさに傷ついている誰かに「明けない夜はない」なんて言ってしまうのは、やはり乱暴なことなのではないかとも思う。4人が話していた「嫌いなポジティブワード」に共通しているのは、目の前の人がどうかという個別の例を表面的にとらえて、一般的な何かに当てはめて話している雑さにあるのかもしれない。

 さらに言えば「他人は変えられないけど、自分は変えられる」のように、どこかその言葉たちには現状の自分から「変化」を求める“圧”を感じるものもある。でも、本当につらいときに「変わらなきゃ!」と言われても、まだそんな気持ちになれないと心がさらに重くなることも。正直、受け入れられるタイミングでなければ、ただ言った側が気持ち良いだけの自己満足になりかねないものだ。

 では、つらい思いをしている誰かに届く言葉とは何なのか。それは、ゆくえが「みんなに嫌われてたじゃん」と話す美鳥に、「みんなじゃないよ。私と赤田は好きだったよ。好きだよ」と返したものがひとつの正解なのではないかと思った。

 ゆくえが、学校で嫌われているという希子(白鳥玉季)について悩む穂積(黒川想矢)にも、ゆくえは「つらいね」とそのまま思ったことを告げて、そっとその場を離れたのもまた象徴的だった。

 誰かのケースや一般論ではなく、事実として自分自身の感情を伝えていく。何かを当てはめようとすることに「不適切」はあるかもしれないけれど、そのときの自分の想いに「不正解」はないのだから。

 嫌われていた美鳥を変にポジティブに変えようなんてしない。穂積の現状を自分がより良くなるようにアドバイスができるなんておごりもない。そのフラットさを持つことができるのも、ゆくえ自身がいくつもの人間関係に悩み、その数だけ傷ついてきた結果なのだろう。

 そして、ゆくえに元気づけられた美鳥が今度は「相変わらずっぽい」と変わらない紅葉を「よかった」と肯定し、彼を笑顔にする。その循環が、過去から現在へ、4人と美鳥との間に流れていたのだと再確認する。

 「2人組が苦手」と言っていた4人が、それぞれ美鳥と2人での思い出があるように、「嫌いなポジティブワード」で盛り上がる4人には、そうした言葉をかけられた苦しみと同じくらい言葉によって救われた経験があるのだろう。その結果、彼らが求めた「帰りたくなる家」が生まれた。4人にとっても、美鳥にとっても、かけがえのない場所が、どのような形になっていくのだろうか。先の読めない展開に、もしかしたらまた何か情報を雑に解釈してはいないか、と心が少しざわつく。そんな余韻もまた、このドラマならではの味わいだ。

■放送情報
木曜劇場『いちばんすきな花』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜、齋藤飛鳥、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風「花」(HEHN RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ichibansukina_hana/
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