ディズニー最新作『ウィッシュ』北米で大苦戦 2週目の『ハンガー・ゲーム0』に敗れる

 北米映画興行の感謝祭(サンクスギビング)シーズンに歴史的異変が起きた。11月23日の感謝祭当日を挟む11月22日~26日の5日間は、映画業界にとって1年で最も重要な週のひとつ。週末興行収入ランキングは、ディズニー創立100周年記念作品『ウィッシュ』が1位をかっさらうと思われていた。

 ところが蓋を開ければ、第1位は『ハンガー・ゲーム0』が2連覇を記録。第2位にはホアキン・フェニックス主演&リドリー・スコット監督の歴史スペクタクル『ナポレオン』が飛び込み、なんと『ウィッシュ』は第3位のスタートとなったのである。

『ウィッシュ』©2023 Disney. All Rights Reserved.

 感謝祭シーズン全体の興行収入は1億7200万ドルで、前年から約40%増加し、コロナ禍以来最高の数字となった。コロナ禍以前の数字には戻っていないあたり、これが業界の変化と言えるのかもしれない。ディズニーが『アナと雪の女王』シリーズや『シュガー・ラッシュ:オンライン』(2018年)の大ヒットを再現できていないこと、ひいてはディズニーの一強時代に危機が訪れていることも無縁ではないはずだ。

 なぜ、『ウィッシュ』は厳しい戦いを強いられたのか。本作は11月24日~26日の週末3日間週末3日間で1950万ドル、22日~26日の5日間で3170万ドルを記録したが、公開前の予測では3日間で3500万ドル、5日間で4500万~5000万ドルが見込まれていた。「100周年記念」という鳴り物入りの作品ながら、スタジオの期待を大きく下回ったのだ。

『ウィッシュ』©2023 Disney. All Rights Reserved.

 本作は、どんな願いも叶う魔法の国、ロサス王国に暮らす少女アーシャが、偉大な魔法使いであるマグニフィコ王の真実を知り、人々の夢を守るために立ち上がる物語。記念作品らしくあらゆる名作にオマージュを捧げる映画となったが、ディズニー映画のフォーマットを守ったがゆえの既視感や、「すぐにディズニープラスで観られるだろう」と思われているブランド力の低下が初動の失敗につながったと考えられている。批評家の見方も厳しく、Rotten Tomatoesでは50%フレッシュで「Rotten(腐った)」評価となった。

 ディズニーは、2022年の感謝祭シーズンでも『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(2022年)で初動成績1885万ドル(5日間)という惨敗を喫したばかり。本作はそこまでの悲劇ではないが、前述の『シュガー・ラッシュ:オンライン』や『アナと雪の女王2』(2019年)のほか、コロナ禍の『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)にも及ばない結果となっている。

 『ウィッシュ』が製作費の2億ドルを回収するには、2023年に思わぬロングランで話題を呼んだピクサー映画『マイ・エレメント』と同じ道筋をたどるほかない(同作も初動成績は暗澹たるものだった)。幸い『ウィッシュ』は観客の支持が大きく、Rotten Tomatoesでは観客スコア81%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「A-」評価だ。日本公開は12月15日、果たしてどんな滑り出しとなるか。

『ナポレオン』

 第2位で初登場の『ナポレオン』は、ホアキン・フェニックス&リドリー・スコット監督という『グラディエーター』(2000年)コンビによる23年ぶりのタッグ作。3日間で2040万ドル、5日間で3250万ドルと、事前の予測を大幅に上回る好発進となった。

 北米興行の傾向を鑑みても、本作の結果は非常に好ましい。英雄ナポレオン・ボナパルトの光と影を描いた本作は、集客しやすくない「R指定の歴史映画」であるうえ、『ハンガー・ゲーム0』と同じく長尺の2時間38分という、明らかな“大人向け映画”だった。昨今のハリウッドで大人向け映画は興行的に苦戦しやすい。そんな中、ファミリー層から青少年を狙った作品が多い感謝祭シーズンで第2位と健闘したことはひとつの快挙だろう。

『ナポレオン』

 『ナポレオン』の製作費は『ウィッシュ』と同じ2億ドルだが、この作品はApple製作で、マーティン・スコセッシ監督&レオナルド・ディカプリオ主演『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と同じ構造である。世界配給はソニー・ピクチャーズが担当したものの、Appleは現時点で劇場興行の成否を大きな問題とは捉えておらず、あくまでも自社の配信サービス「Apple TV+」の宣伝として見ているというのだ。しかも『ナポレオン』の世界興収は7880万ドルで、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』以上の初動となっている。

 もっとも、本作は批評家・観客ともに賛否両論まっぷたつ。Rotten Tomatoesでは批評家61%・観客59%、CinemaScoreでは「B-」評価となった。共演はナポレオンの妻・ジョゼフィーヌ役にヴァネッサ・カービー、脚本は『ゲティ家の身代金』(2017年)のデヴィッド・スカルパだ。日本公開は12月1日、その仕上がりをぜひ映画館で確かめてほしい。

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