『大奥』は“バディ”から“チーム”へ 制作統括が明かす「幕末編」初の映像化への覚悟
2023年1月期に放送されたSeason1が大きな反響を呼び、Season2も絶賛放送中のNHKドラマ10『大奥』。11月7日からは「幕末編」がスタートし、いよいよ物語は完結に向かって動き出していく。累計700万部を超える人気作の再映像化という高いハードルを乗り越え、原作ファンからも高い評価を受ける本作。その裏側はどうだったのか。制作統括を務める藤並英樹に、改めて今回の挑戦を振り返ってもらうと同時に、幕末編の見どころを聞いた。
“治済Tシャツ”を自作するほど、スタッフに愛された仲間由紀恵の治済
――前回の放送でSeason2の「医療編」が完結しました。豪華なキャストの中でも、特に治済役の仲間由紀恵さんが反響を呼びましたが、オファーした理由から教えてください。
藤並英樹(以下、藤並):仲間さんとはNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』でもご一緒させていただいたのですが、やはりひとえにお芝居の奥深さですよね。仲間さんなら治済という難しい役どころでもこなしていただけるだろうという確かな信頼感がありました。また、『ちむどんどん』では優しいお母さん像を体現してくださったので、今度は180度異なる冷徹さや闇を持った役を演じていただくのもギャップとして面白いのではないかという思いからオファーさせていただいた次第です。
――オファーされた時の仲間さんの反応は? ファンブックの中でも仲間さんは治済という役を「役者人生の中で最難関」と表現されていましたが、現場のご様子や役作りについて話し合われたことなどがあれば、教えていただきたいです。
藤並:まずオファーさせていただいた時には、「こういう役を演じることはあまりないですし、時代劇も久しぶりなので楽しみです」というふうにおっしゃっていただきました。現場では『ちむどんどん』のスタッフも多かったことや、NHK大河ドラマ『功名が辻』でご一緒させていただいた大原拓がチーフ演出を務めていることもあり、非常にいい雰囲気の中でお芝居していただけたのではないかと思っています。その中で大原をはじめ各演出と仲間さんの方で話し合い、最初から治済の怖さを出しすぎることなく、徐々に大奥を侵食していく感じを丹念に設計していきました。
――実際に仲間さんの演技を見られていかがでしたか?
藤並:原作の治済とはまた違って、仲間さんが持っていらっしゃる美しさや優しさを出しつつも、治済の底知れぬ闇みたいなものを体現してくださったのではないかなと思います。特に第13話で治済が武女(佐藤江梨子)に「これで田沼は“用済み”じゃな?」と言うシーンや、第14話における武女や幼い家斉とのやりとりで、治済の本性が垣間見えた時に「期待以上の治済になるのではないか」と確信しました。治済は“嫌な役”ではありますが、スタッフの中では非常に人気があり、治済Tシャツを作ったりするほど、みんなが仲間さん演じる治済に愛着を持っていたように思います。それは仲間さんが演じてくださったからこそですし、おかげさまで「医療編」の中でもトピックなキャラクターになりました。
――そして、11月7日から始まる「幕末編」にはSeason1で有功を演じた福士蒼汰さんが今度は天璋院/胤篤役で登場します。有功役でオファーされる際に、胤篤役も一緒にお願いしていたのでしょうか?
藤並:最初から福士さんに胤篤役もお願いしようと思っていたわけではありません。Season1を作りながらSeason2の準備も進める中で、胤篤役を誰にお願いするかを話し合ってきました。その中で、やはり福士さん演じる有功と堀田真由さん演じる家光の2人が多くの出発点になっていること。また、福士さんが有功というキャラクターを的確に演じてくださったので、シリーズが完結を迎えるにあたり、原作でも「有功の生まれ変わりのようである」と言われる胤篤役で改めて福士さんをお迎えしたいと思ってオファーさせていただいた形になります。
――改めてオファーした際の福士さんの反応は?
藤並:福士さんは撮影現場も含めてこの作品を気に入ってくださり、Season1のクランクアップの際にも「また戻ってきたいです」というふうにおっしゃっていただきました。改めて胤篤役でオファーさせていただいた時も非常に喜んでくださり、僕らスタッフもすごく嬉しかったですね。
――有功と胤篤は見た目こそ瓜二つですが、性格は全く異なるキャラクターです。両者を演じる福士さんを見て、どのような感想を抱かれましたか?
藤並:有功と胤篤の違いをしっかりと意識し、堅実に演じ分けてくださっている印象です。一方で、福士さん自身が持つノーブルな感じや聡明さは、有功と胤篤の両方に通ずるものであり、そこは連続性を持って演じていただいています。また、有功も胤篤に共通する、聡明で、かつチャーミングな部分をうまく表現してくださいました。
――仲間さんや福士さんに限らず、ドラマ全体を通してキャストの皆さんの表情がとても豊かに感じられます。そこには何か狙いはあったのでしょうか?
藤並:特に何か狙いがあったわけではなく、その表情を生み出しているのがよしながふみさんの原作であり、森下佳子さんの脚本だと思うんです。人の哀しみや業というものが丹念に描かれていて、それを俳優の皆さんが各演出と相談しながら一生懸命表現してくださった結果なのかなと思います。