津田健次郎が考える、俳優として働くことの意味　下積み時代も「辞める選択肢はなかった」

ーーこれまでのインタビューでは「下積み時代が辛かった」とおっしゃられていますが、それにもかかわらず、演技のキャリアを積むモチベーションを保ち続けられたのはなぜでしょうか？

津田：なんでだろう？　辞めるっていう選択肢はそもそもなかったんですよね。やっぱり「表現したい」っていう信念が強かったからなのかもしれません。一瞬、立ち止まってなにもできなくなっちゃった、みたいな時間もなくはないんです。でも「死ぬわけじゃないし」ってポジティブに考えている節もあって。止まっていても何も変わらないので。

ーー今の津田さんでも苦労する場面があったり……？

津田：未だに突きつけられる、問いのようなものに悩む瞬間はあります。さっき似たようなことを少し話しましたが、芝居を始めて以来「自分は何を表現できるか」という問いが、頭の中にずっとあるんですよね。自分の表現は面白いのか、自分は何者なのか。そういう葛藤のようなものが、日常生活の中で、あるときひょっこり顔を出したりするんです。もちろん初期は、自分でやれることってほとんどなくて。自分が預けていただいたキャラクター、出演させていただいているシーンを面白くできるかどうかだけに熱量を傾けていたというか。でもこの頃はもう、芝居の中に自分というものをいかにミックスして、1つのキャラクターを作り上げていくかをずっと考えています。

ーー本作は広い意味で「他者のリアクションを通して感じる喜び」が表現されているように感じます。秋乃の喜びは“お客様の笑顔”ですが、津田さんは観客や視聴者という存在について、どのように考えていますか？

津田：観客の皆さんとは、直接的な知り合いではないかもしれません。でも皆さんが、どんな人生を歩んでいらっしゃるのか。今何を抱え、何が悲しくて、何が苦しくて、何が楽しいのか。それを考えていくことが、大切な気がしていて。人生の時間は有限ですから。

ーーまさしく、百貨店に来てくれたお客様のそれぞれのバックグラウンドを描く本作とも重なる部分がありますね。

津田：そうなんです。でも「人の心を動かす」って、実はなかなか難しいんですよね。エンタメだから、お芝居だからと言って、観に来てくれた全ての人の心を動かせるわけでもないですし。作品によって、心が動く時も、動かない時もある。でもその上で、「なんで今日来てくれたのかな」とか、「どうせなら少しでも皆様の人生が少しでも豊かになれば」と思いながら、仕事をしています。

ーー芸歴25年を超える津田さんから、あらゆる業界で頑張る「新人さん」に向けてアドバイスをお願いします。

津田：どういう状況であれ、自分が携わったお仕事と、1度本気で全力で向き合ってみると見えてくるものが色濃くなる気がします。それは面白いものかもしれないし、とてつもなくつまらないものかもしれない。そこを見極めるためにも、1回本気出さないと見えないものがある気がするんですよね。もしも違ったら、次に行ってみればいいと思います。転職でもなんでも、どんどんしてください（笑）。仕事する時間って、例えば8時間なら1日の3分の1……それって、人生の3分の1でもあるじゃないですか。どうせなら、想いをかけられるようなものであると良いなと個人的には思います。もしもまだそれが見つかっていないのなら、たくさん体験して、探してみると素敵なことがあるかもしれないですね。

■公開情報
『北極百貨店のコンシェルジュさん』
全国公開中
原作：西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』（小学館『ビッグコミックススペシャル』刊）
声の出演：川井田夏海、大塚剛央、飛田展男、潘めぐみ、藤原夏海、吉富英治、福山潤、中村悠一、立川談春、島本須美、寿美菜子、家中宏、七海ひろき、花乃まりあ、入野自由、花澤香菜、村瀬歩、陶山恵実里、氷上恭子、清水理沙、諸星すみれ、津田健次郎
監督：板津匡覧
脚本：大島里美
キャラクターデザイン・作画監督：森田千誉
音楽：tofubeats
主題歌：Myuk「Gift」（Sony Music Labels Inc.）
アニメーション制作：Production I.G
配給：アニプレックス
©2023西村ツチカ／小学館／「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会
公式サイト：https://hokkyoku-dept.com/
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