『下剋上球児』は男性中心の価値観を脱する 黒木華、井川遥らが担う役割

 『下剋上球児』が放送される日曜劇場は男性色の濃い放送枠だ。ターゲット視聴層に男性を含んでおり、登場人物も男性キャラをメインに据えることが多い。過去5年で主演が女性だった作品は、2021年1月期『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS系)の綾瀬はるか、2019年1月期『グッドワイフ』の常盤貴子くらいで、圧倒的多数の作品で男性が相関図の真ん中を占めていた。そこで交わされる会話や作品のメッセージは、男性中心の社会で重きをなす指標や価値観だったといえる。

 高校野球というホモソーシャルな空間を舞台にした『下剋上球児』も、一歩間違えれば、タテ社会の根性論が幅を利かせる“スポ根”ドラマになりかねない。そうなっていないのは黒木華演じる山住の存在が大きい。精神論を振りかざさない南雲に対して、勝負にこだわり、厳しい指導をいとわないのは実は山住の方だったりするのだが、厳しさの裏返しとしてのダメさ≒甘えに逃げてしまいがちな心理と決別したところに山住はいる。山住は理不尽な根性論と異なる角度から彼女なりの理想を追求しており、スポーツマンシップが男性だけのものではないと知らしめた。

 黒木を筆頭に、本作の女性キャストは考え抜かれた配役だと感じる。井川遥演じる南雲の妻・美香はシングルマザーとして南雲と出会い、南雲が経歴を詐称した動機に美香と家族の存在があった。スポーツを主軸に進む物語の空白部分に余韻を漂わせながら、南雲の夫としての顔を浮き彫りにし、山住や周囲の人々とのやり取りによって、間接的にストーリーの現在地を知らせる役割を担った。ほかにも、エース犬塚翔(中沢元紀)の母・杏奈を演じる明日海りおやリリーフの根室(兵頭功海)の姉・柚希を演じる山下美月もいて、『下剋上球児』を人間ドラマとして成立させることに寄与している。彼女たちがいなかったら、本作はまったく趣の異なる作品になっていただろう。

 第3話では、現主将の日沖から椿谷へ、またキャッチャーで2年の富嶋(福松凛)から壮磨へと2018年につながるバトンも示唆され、下剋上の布石も打たれた。キャプテンに留任した日沖が金髪を黒髪に染めて臨んだ抽選会に、駆け付けたのは南雲その人だった。かつて抽選のくじ引きをこれほどドラマチックに描いた作品があっただろうか。その熱狂をもたらしたのが、日々思いを発熱させながらグラウンドに足を運んだ生徒たちであることは明らかだ。山住は南雲をベンチ入りさせ、南雲の共犯になると決めた。下剋上の夏まであと740日だ。

■放送情報
日曜劇場『下剋上球児』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:鈴木亮平、黒木華、井川遥、生瀬勝久、明日海りお、山下美月、きょん(コットン)、中沢元紀、兵頭功海、伊藤あさひ、小林虎之介、橘優輝、生田俊平、菅生新樹、財津優太郎、鈴木敦也、福松凜、奥野壮、絃瀬聡一、鳥谷敬、伊達さゆり、松平健、小泉孝太郎、小日向文世
原案:『下剋上球児』(カンゼン/菊地高弘著)
脚本:奥寺佐渡子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山室大輔、濱野大輝
編成:佐藤美紀、黎景怡、広瀬泰斗
製作:TBSスパークル
©TBSスパークル/TBS(撮影:ENO)
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/
公式X(旧Twitter):@gekokujo_kyuji
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