『プリキュアオールスターズF』に凝縮されたシリーズの魅力 入門編としても最適な一作に
毎年公開される他のキャラクターアニメ映画と比較しても、『プリキュア』シリーズは引けを取らない優れた作品が多い。特にオールスター作品としては前作にあたる『映画HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』を、筆者は近年公開されたアニメ映画の中でトップクラスに高く評価している。なぜ『プリキュア』シリーズの映画が優れているのか。その一因は、このシリーズが構造的に持つ「正義と力とは何か?」という問いが含まれているからではないか。
初代の『ふたりはプリキュア』は「女の子だって暴れたい」というキャッチコピーをもとに、製作が開始されたことは広く知られている。東映アニメーションが制作した同時期の女児向けのアニメといえば『おジャ魔女どれみ』など、魔法少女を題材とした作品が思い浮かぶ。同時に男児向けには『ドラゴンボール』シリーズなど、少年漫画原作のバトル作品が多かった。『プリキュア』は、可愛らしく変身する仮装とオシャレの楽しさを持つ女児向けアニメの魅力と、バトル要素という男児向けアニメの魅力の2つの要素を組み合わせて誕生したシリーズなのだ。
その結果、『プリキュア』シリーズは戦闘描写にもこだわり、まさに圧巻と言えるバトル作画を生み出しており、毎年重要な話数では縦横無尽に動き回る圧倒的な映像表現によって、作画ファンを唸らせている。それは『映画プリキュアオールスターズF』でも発揮されており、戦闘作画を観るために劇場に足を運ぶ価値が大いにある。
同時にプリキュア作品は戦いの強さだけが勝敗を決めるわけではなく、ただバトルに勝つことだけを目的としていない作品もある。『映画プリキュアオールスターズF』で悪役となるキュアシュプリーム/プリムは、その圧倒的な力でオールスターであり多勢のプリキュアをも圧倒する能力を見せ、まさに最強の敵というに相応しい存在だ。
その圧倒的な力に対して、各プリキュアたちはそれぞれの思いを、作品の名場面を通してキュアシュプリームと観客に見せつける。シリーズごとに核となる思いは異なるものの、近年は特に敵への救済、あるいは敵とされてしまう者への理解を示す作品が多い。今作でもそれは同じであり、キュアシュプリームとの壮大な戦いの果てにあるのは、単なる敵の排除ではなく、困難を乗り越えた先にある理解と協調の世界だ。
近年、多様性の重要さが強く叫ばれている。特に『プリキュア』シリーズは積極的に多様な価値観を導入し『ひろがるスカイ!プリキュア』ではレギュラーキャラクターとしては初の男子&成人女性がプリキュアに変身し話題となった。同時に多様な価値観は多くの視点を与え、さまざまな意見を呼び起こす。
『プリキュア』シリーズは、敵との融和を中心に描くのか、あるいは勧善懲悪となるのか、その方針は作品ごとに変化していく。何を持って正義とするのか、という問いの答えは多様だ。悪を倒せばそれで万事解決、という単純な話だけではない。敵をも救済するのか、それとも悪事を働いた敵は倒すべきか、そもそも敵を倒すということは正義なのか。その問いに対する答えは、観客の中でも分かれるだろう。児童向けのバトル作品だからこそ、敵とは何か、それを倒す正義とは何か、という視点に自覚的であり、同時にプリキュアとは何かと語りかけ、それが映画のテーマとなり大きな意義を生む。
SNSの隆盛もあり、分断が加速していると言われている現代において、この正義と悪のあり方について考える視点はとても重要だ。『映画プリキュアオールスターズF』は、子どもたちに楽しい思い出を与えながら、大人たちにじっくりと語りかける意欲作だ。
■公開情報
『映画プリキュアオールスターズF』
全国公開中
出演:関根明良、加隈亜衣、村瀬歩、七瀬彩夏、古賀葵、菱川花菜、茅野愛衣、高森奈津美、ファイルーズあい、日高里菜、悠木碧、三森すずこ、白石晴香、小原好美、本泉莉奈、藤田咲、早見沙織、嶋村侑
原作:東堂いづみ
監督:田中裕太
脚本:田中仁
音楽:深澤恵梨香
総作画監督・キャラクターデザイン:板岡錦
美術監督:林竜太
色彩設計:清田直美
撮影監督:大島由貴、高橋賢司
製作担当:吉田智哉、本田竜馬
主題歌:いきものがかり「うれしくて」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
オープニングテーマソング:石井あみ、Machico「For “F”」
映画プリキュアオールスターズF製作委員会:東映アニメーション、東映、ABCアニメーション、バンダイ、ADKエモーションズ、マーベラス
配給:東映
©2023 映画プリキュアオールスターズF製作委員会
公式サイト:2023allstars-f.precure-movie.com
公式X(旧Twitter):@precure_mov