『スパイキッズ:アルマゲドン』の突出した点を解説 ロバート・ロドリゲスが託した希望

 ロバート・ロドリゲス監督が手がけてきた『スパイキッズ』シリーズは、スパイの夫婦とその子どもたちが悪の組織と戦って世界の危機を救うといった内容のファミリームービーとして、人気を博してきた。とくに親も顔負けなくらいに子どもたちが大活躍する展開は、多くの子どもの観客の心を掴むこととなり、このコンセプトは流行りのアメコミヒーローを題材とした『ヒーローキッズ』(2020年)にも受け継がれることになった。

 シリーズ5作目として、この度Netflixで配信された『スパイキッズ:アルマゲドン』では、キャストが一新され、スパイ家族の新たな冒険が描かれる。しかし、この作品はシリーズのなかでも、とくに荒唐無稽で、“子ども中心”主義がさらに徹底された、異様ともいえる内容となった。ここでは、そんな本作『スパイキッズ:アルマゲドン』のどこに突出した点があるのかを考えていきたい。

 アントニオ・バンデラスとカーラ・グギーノが演じたスパイと、アレクサ・ヴェガ、ダリル・サバラがシリーズの中心となっていた作品が、多くの観客の印象に残っているかもしれないが、前作『スパイキッズ4D:ワールドタイム・ミッション』で、いったんシリーズのなかで代替わりがおこなわれている。今回はまた新たに『AWAKE/アウェイク』(2021年)のジーナ・ロドリゲス、『シャザム!』シリーズのザッカリー・リーヴァイがスパイ夫婦役となり、コナー・エスターソン、エヴァリー・カーガニーラが、その子ども役トニーとパティとして活躍する。

 驚くべきは、本作の物語設定だ。「アルマゲドンコード」なるプログラムを利用したコンピューターウィルスが蔓延したことにより、世界のあらゆるデジタル機器が、TVゲーム「ハイスコア」のステージをクリアしなければ使えないという状況に陥ってしまう事件が発生する。自動支払機で現金を引き出すのに、いちいちゲームの敵キャラと戦わねばならなかったり、システムで制御された自宅の鍵を解除するのにもゲームで崖から崖に飛び移ったりしなくてはならないのだ。

 ゲームプレイに熟達していない大人たちは弱り果て、世界は混乱の渦に巻き込まれてしまうが、TVゲームが得意なトニーとパティは、両親が弱っている状況を眺め、「手伝ってあげようか?」とクールに申し出て、すんなりとゲームをクリアするのだった。そして、「ハイスコア」に詳しいこの子どもたちは、世界を救う鍵になってゆく。

 この設定が意味するところが分かるだろうか。これは、子どもにとっての一つの夢の実現である。ゲームをはじめとして、いつも遊びに夢中になっている世界中の子どもたちは、往々にして親から「もう、そんなくだらない遊びはやめなさい」、「そんな遊びなんか何の役にも立ちやしない」などと、学校の勉強に集中することを促されている。

 そんな子どもたちが、遊びをすることで親の窮状を助け、この混乱した環境において最も必要とされる人材となり、世界を救うヒーローにすらなろうとするのである。この状況そのものが、子どもたちの夢であり、もっといえばある種の復讐ですらあるのかもしれない。

 異様なのは、これがファミリームービーとして提出されているという点だ。『スパイキッズ』シリーズは、確かに子どもが大活躍する内容ではあったが、このように親の立場をなくさせるまで子どもの価値観を正当化する物語の流れというのは、かなり極端だといえるのではないか。家族で本作を鑑賞していたら、親が途中で停止ボタンを押しかねない。

 そしてこれまでの『スパイキッズ』シリーズ同様、子どもたちはスパイとして大人の世界に影響を及ぼすようになっていきさえする。とはいえ、第1作と比べても、スパイキッズの見た目や喋り方はさらに幼いものと感じられるので、本作の強引な設定と同様、あまりにリアリティに欠けると感じる描写が続いてしまっているところがある。

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