『ミステリと言う勿れ』“広島編”が映画で描かれた理由 久能整を作り上げた幼少期の経験

 デビュー40周年を迎えた少女漫画家・田村由美の、『7SEEDS』『BASARA』に次ぐ傑作コミックとして知られる『ミステリと言う勿れ』。天然パーマの大学生・久能整が膨大な知識と独自の価値観に基づく持論を展開し、様々な事件の謎とその関係者たちの心を解きほぐしていく本作では、たくさんの名言が飛び出す。

 その中でも、誰の胸にもストンと落ちるのが「子供って乾く前のセメントみたいなんですって。落としたものの形がそのまま跡になって残るんですよ」という整の台詞だ。ドラマで整を演じた菅田将暉も原作で1番好きと語る(※)、この台詞が登場した「広島編」を映像化する劇場版が9月15日に公開となった。

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 美術展のために広島を訪れた整が女子高生の狩集汐路(原菜乃華)によって、代々死人が出るという名家・狩集家の遺産相続事件に巻き込まれていく本作。本来、この「広島編」は原作の2巻〜4巻に該当する序盤のエピソードだが、おそらく最初から映画化を前提にドラマでは飛ばされる形となったのだろう。ドラマで描くには長すぎるというのもあるが、他にも映画化に向いている理由がいくつかある。

 その一つが、スクリーン映えする舞台設定。今回は瀬戸内海に面した広島や岡山でロケを敢行しており、広島県立美術館や平和記念公園、旧野崎邸、鷲羽山公園線といった有名な名所が撮影場所に使われている。特に、宮島の海に嚴島神社のシンボルとなる大鳥居が佇んでいる場面は絶景だ。舞台が都心から地方(もしくは海外)に変わると特別感が増すだけではなく、観る人も旅情気分を味わえる。他のTVドラマの劇場版も同様で、『七人の秘書 THE MOVIE』の日本アルプスの雪景色、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』におけるマレーシア・ランカウイ島のリゾートなど、ストーリーのみならず、舞台となっている場所の圧巻の美しさが話題となった。さらに、本作と両作品に共通するのはいずれも主人公がお家騒動に巻き込まれていく展開となっていること。莫大な資産を持つ名家の内部で起きる対立は多くの人にとって馴染みがなく、なおかつ複雑に絡み合う人間関係をじっくりと描くことができる。そういう点でも広島編がドラマではなく、映画で描かれたのは納得だ。

 ただ、それ以上にこのエピソードが作品全体の中でとても重要な位置を占めるものであるからだと筆者は考える。ドラマでは深く言及されなかった整の幼少期が劇場版で少しずつ見えてくるからだ。整が迷わず路面電車で平和記念公園に辿り着いたり、お好み焼きをヘラで食べたりと、広島にルーツがあることを匂わせる場面もある本作。整が既出の台詞を向けた遺産相続者の一人・ゆらの娘や、汐路という未成年の子どもたちへの振る舞いも、自身の生い立ちや経験に基づいたものに感じられた。

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