立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第48回

映画の長さは何時間が“正解”? 現代のライフスタイルや娯楽を基に考える

 このための作品を開発しつつも、「ショート」はもういっそのこと、割り切ってテレビやネット配信のドラマとかアニメを上映する、ということでもいいかも知れません。『ゲーム・オブ・スローンズ』とか『マンダロリアン』とか『鬼滅の刃』を映画館クオリティで観たいという人は少なくないでしょう。

 実際『鬼滅の刃』は「遊廓編」第11、12話と「刀鍛冶の里編」の第1話を劇場公開しました。これは3話まとめたので110分でしたが。『【推しの子】』の第1話スペシャル版の上映もありましたね。あれは85分でした。この提案に近いところまで、もう現実は追いついてきています。

 動画配信サービスの急成長により、かつてのビデオレンタル店の隆盛の時と同じ危機が映画館には迫っているはずです。TikTokやYouTube ショートがかなり観られていることも映画離れを引き起こしているはずです。お客様の利便性を上げていくという視点を持たずにビジネスを継続していけるというのは驕りがあるのではないかと思います。

 映画や映画館を尺という観点から、現在のライフスタイルや娯楽の傾向を踏まえて再考するべきではないかと常々考えてはいるのですが、この問題のやっかいなところは、誰かが映画のフォーマットを統括しているわけではない、ということです。しかも映画は世界各国からやってきます。

 往年の長尺映画のように堂々とインターミッションがある3時間30分超えの映画が大ヒットすれば、流れが変わるかも知れません。60分の作品が、興収100億円を突破するとか。

 逆に長尺にもかかわらずインターミッションがなくなったのは『タイタニック』3時間14分で休憩なしにして特大ヒットしたのがきっかけだったのではないかと思うからです。ちなみに『タイタニック』はその長さが理由だったと思いますが、当時入場料一般1,800円のところ2,000円でした。値上げしたのです。先例はあるのです。

 もしすべての映画が60分/120分/180分のいずれかの尺で決まっていて、ぶれてもせいぜい予告編で調整できる±5分以内に収まっていたら、と考えます。

 今ほとんどのシネコンは数日先、あるいは長くて1週間程度先のスケジュールしか出しておらず、お客様はギリギリの日付で目当ての作品が何時スタートか調べて観に来てくださっています。本当にこのままでいいのか、疑問がわきます。

 尺が決まっているなら、上映時間はある程度固定にできます。上映中かどうかと、昼時間帯、夜時間帯に上映があるかなど、結局調べていただかなくてはならないことは残りますが、今より予定はずっと立てやすくなるはずです。

 繰り返しになりますが映画にはアートの側面があり、フォーマットは創作の自由を阻害することもあるでしょう。美術館に行って、絵画のサイズが大中小の3つしかなかったら、面白みは減ずるかも知れません。つまり一映画ファンとしては、それは映画の美しい側面だと思っています。

 しかし、雑誌等に連載される小説や漫画には規定の分量があります。先述のテレビ番組もそうです。教会の天井画や、城や寺院にある障壁画なども同じでしょう。フォーマットが決まっており、その枠の中で作り上げられた創作物は少なくありません。傑作も数多あります。必ずしも規定の枠組みが創作の障害になるわけではありません。

 上映尺の視点から映画や映画館のあり方が考えられることはあまりありませんが、尺は即、ビジネスに影響を与え、鑑賞に影響を与え、映画カルチャー全体に影響するものです。

「映画の長さは何時間が正解か?」

 この問いに答えはありませんが、この問いが創作的質問なのか、鑑賞利便性からの質問なのか、ビジネスの最適効率からの質問なのか、実は複雑な質問である、ということを意識して皆さんにも多面的に考えていただけたらと思います。

 映画館には、映画には、まだまだ改善の余地が多く残されていると前向きに捉えています。

 つまり、もっと面白くなれる。

 You ain't heard nothin' yet!(お楽しみはこれからだ)

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