『どうする家康』史実の展開に向けて敷かれた伏線 石川数正が気づいた家康の欠点とは?

 そう言えば、第33回「裏切り者」の中に、ひとつ気掛かりな台詞があった。家康と最後の対面に臨む前、酒井忠次(大森南朋)との会談の際に数正が漏らしたひと言だ。「国を守らぬ大名は生きていけぬ」と言う忠次に向けて数正がつぶやいた「それだけが理由かの……」という言葉。幼き頃からずっと家康を見てきた数正は、もはやとっくに気づいているのかもしれない。家康が掲げる「厭離穢土欣求浄土」の中に、「大義」だけではない「何か」が潜んでいることを。それにしてもその別れ際、二度も繰り返された「私はどこまでも殿と一緒でござる」という言葉は、何を意味するのだろうか。それは、恐らく言われた本人である家康にとっても、依然として意味をなさないどころか、不可解な言葉だったのだろう。なぜならその直後、数正は家族郎党を引き連れ出奔し、秀吉のもとへと向かってしまうのだから。

 かくして、家康にとって最大の強みである「家臣団の強固な結束」に決定的なヒビが入った第33回「裏切り者」。ここからまた家康は、大きく変わっていくのだろう。「戦のない世を作る!」という、かなり早い段階から本作の通奏低音のように流れ続けている「大義」は変わらずとも……あるいは、その純度を高めることによって、今後の方策が大きく変わっていくのだろう。そこには、本多正信(松山ケンイチ)の存在も大きく関係してくるのかもしれない。かつて家康のもとから出奔し、三河一向一揆の軍師となっていた彼は、家康にこう進言していたのだから(第9回「守るべきもの」)。「己の妻と子を助けるために戦をするような方には、日々の米一粒のために殺し合い奪い合う者たちの気持ちはお分かりにならんのでしょう。仏にすがるのは現世が苦しいからじゃ。生きているのがつらいからじゃ!」と。

 いずれにせよ、史実に基づくならば、「小田原征伐」「関東への国替え」「朝鮮出兵」「関ヶ原の戦い」と、今後も家康を取り巻く世界は、激しく動き続けるのだろう。その中で家康は、どんなふうに変化してゆくのだろうか。「厭離穢土欣求浄土」の大義は、どのようにその純度を高めてゆくのだろうか。あるいは超越してゆくのだろうか。いささか気が早い話ではあるけれど、そんな家康の真価は、恐らくお市の面影を色濃く感じさせるであろう「ある女性」と対峙したときに、いよいよ問われることになるのだろう。「徳川殿は嘘つきでございます。茶々はあの方を恨みます」(第30回「新たなる覇者」)。その伏線は、かなりわかりやすい形で、すでに敷かれているのだから。

■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK

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