『ばらかもん』田中みな実の表現力の真骨頂 育江の涙が物語った“ヤスばとの全て”

 帰京していた半田清舟(杉野遥亮)がまたなる(宮崎莉里沙)たちが待つ五島の生活に戻ることを選んだ『ばらかもん』(フジテレビ系)第6話。

 最初は清舟が島に戻ることを断じて許さなかった母・えみ(長野里美)も、彼が島の子どもたちから慕われている様子を知り、五島での息子の書道以外での成長を目の当たりにした。「石垣」と名付けた作品を出展した書道展の結果は、清舟も若手書道家・康介(荒木飛羽)も受賞圏外だった。しかしその結果を真正面から受け入れ、どこか清々しくさえ見える清舟の姿は以前からは想像もできないほどタフだ。結果よりも、“自分が今一番大切に思っていること”を一枚の書に昇華できたことに確かな手応えと達成感を感じているようで、以前美術館館長の八神(田中泯)に指摘された“賞を獲るために書いたような文字”の域など遥かに越え、はみ出せている。むしろ、清舟が書道を教えた珠子(近藤華)と美和(豊嶋花)が夏休みの課題でそれぞれ金賞と銀賞を受賞したと聞いた時の方が心から嬉しそうにする様子を見て、えみもこれ以上五島行きを止める理由を失い、観念した。

 島に戻った清舟に待ち受けていたのは、彼の中の“石垣”の礎となる部分に気づかせてくれたと言っても過言ではないヤスば(鷲尾真知子)の死だ。持病もありしばらく寝込んでいたヤスばは、近所に住む看護師の育江(田中みな実)に看取られながら旅立つ。ヤスばと言えば、餅まきの極意として上ばかり見るのではなく下も見ること、そして時にチャンスを譲ってもっと大きな餅をキャッチする機を待つ“どうぞお先に”の精神の重要性を清舟に教えてくれた人物。あのヤスばの教えがあったからこそ、清舟は五島での様々な気づきや教訓を素直に吸収する素地を持つことができたのだろう。

 そんなヤスばにとって、育江は互いに“遠くの身内より近くの他人”という距離感だった。一方で、一度は東京に出て行ったものの離婚して島に戻り、頼れる身内のいなかった育江にとってもまた、ヤスばは本当に精神的な支柱のような存在だったようだ。

 村中の人が集まって大きな鍋料理を作ったり、墓まで大名行列をなして故人を見送る野辺送りなど島での葬式はなんだか騒がしく、人々の生活の延長上に葬式も死もある。育江はいつも通りテキパキと働きながらも、いざヤスばを乗せた霊柩車を見送る際に泣きながらその後を追いかけその場に座り込む。その姿は一気に子どもに戻ったような心細さがあり、彼女がヤスばと過ごした彩豊かな日々とそんな絶対的な存在の不在を改めて物語っていた。

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