『クレヨンしんちゃん』の3DCG化は成功? 評価するべき点と気になったキャラ造形

 一方で、課題だと感じたのはコミカルな描写の自由な発想力だ。特に敵役である非理谷充のデザインについて言及したい。過去作では『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のマカオとジョマが代表的であるが、冷静に考えるととても恐ろしいことをしているのに、どこか笑えるキャラクターデザインだった。

 今作では非理谷充は社会に対する不満を抱いているという、いわゆる無敵の人の問題にも言及している。そのためデザインが現実にいそうな若者であればあるほど、より現実感は増してしまい、笑うに笑えなくなってしまう。特に幼稚園の占拠などの描写は、現実に起こり得るだけに、コメディ要素を増やしてよりバカバカしい表現にしなければ、後味が悪いものになってしまうように感じた。

 近年の作品でいえば『映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』の独特な格好をした宇宙人、あるいは『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』のように忍者の格好であれば、ファンタジーとして成立したのではないか。あるいは『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』のように子どもがバスの運転をする、などの現実にはあり得ないほどのコメディにしたり、背景美術の抽象度を高めるなども1つの手であっただろう。その意味では超能力という題材は、キャラクターデザインなどの見た目の面では、現実に近づきすぎてしまった印象もある。

 また、欲を言えば後半に登場するある強大な敵のデザインは、人気ロボットアニメを連想する造形だった。この強大な敵の姿も「さすがしんちゃん!」と喝采するような、面白いデザインになれば、よりシリーズらしさを強調するとともに、新たな表現の境地へと1歩踏み出す結果になったのではないだろうか。

 とはいえ、今作は『クレヨンしんちゃん』のシリーズとしては、初めての3DCG作品であり、手書きで蓄積された表現と比較して改良の余地はあるとはいえ、白組らしい家族で楽しめるアニメ映画になっていたように思う。今後もこの路線で制作されるのかはわからないが、1つの挑戦の結果として十分な結果を残したと評価したい。

■公開情報
『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』
全国東宝系にて公開中
原作:臼井儀人(らくだ社)/『月刊まんがタウン』(双葉社)連載中
監督・脚本:大根仁
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ
声の特別出演:松坂桃李、空気階段、鬼頭明里
主題歌:サンボマスター「Future is Yours」(ビクターエンタテインメント)
製作:しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会
配給:東宝
©臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会
公式サイト:https://www.shinchan-movie.com/
公式X(旧Twitter):@shinchan3dcg

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