パナー・パナヒ、初長編監督作で描いた“イランの実情”を語る 父ジャファルとの経験も
霧の出る時間帯まで入念に調べ上げたロケハン
ーーイランの自然美を捉えたロケーションも素晴らしかったのですが、ロケハンも入念に行われたのでしょうか?
パナヒ:脚本作業も終わりに近づいて「これは撮れる」と思ったころ、ロケハンに出かけました。実際にロケーションを見てから映像的なアイデアが湧いてきた部分もあり、演出を補強する意味でも役立つ旅になりました。計5回ほど、いろんな季節、いろんな光を感じるために、テヘランから国境まで同じ道を行き来したんです。朝、昼、夕方と、それぞれの場所、それぞれの時間帯でどのような変化があるのか、頭と体に染み込ませました。たとえば霧が山の上から降りてくるのは、ある時期の3日か4日だけ、それも11時から13時の間ぐらいだとわかりました。どんなタイミングでちょうどいい具合に風が吹いてくるのか、それもしっかり観察して周到に準備しました。しかし、実際に撮影を始めてみると霧が全然出なかったりする(笑)。仕方なく移動して別の場面から先に撮ったりもしました。私は自然のなかでの撮影で根気強く粘る経験がありましたが、なかには疲れてしまうスタッフもいましたね。それでも、最終的に素晴らしいショットが撮れると、みんな手応えを感じてくれて、監督への信頼も手に入れることができました(笑)。
ーーそういった入念な準備や、厳密な脚本の書き方なども含め、映画製作に関して影響を受けた方はいるのでしょうか?
パナヒ:明確な影響を受けたとは言えませんが、やはりジャファル・パナヒという映画監督と一緒に30年ほど暮らしてきましたから(笑)。彼の忍耐力、冷静さを保つ態度は間近で学びました。私が幼いころ、アッバス・キアロスタミ監督と父のロケハンに同行したことがあり、車の中でふたりがどんな会話をしているのか、ロケーションを見てどんなことを考えているのか、すべてに聞き耳を立てていました。大人になってからは、撮影助手、助監督、編集助手、音響スタッフ、スチルフォトグラファーといった役職で、映画制作の工程に携わりました。それらの経験から得た知識をできる限り高めてから、今回の長編デビューに臨んだわけです。だから誰かからの影響ではなく、あくまで自分の得た知識と経験がもとになっています。ジャファル・パナヒ監督からは、映画作りにおけるすべての分野にチャレンジし、どこかで問題が起きた時にどのように対処するのか、スタッフとどのように接するべきか、そういうことを学びなさいと言われていました。だから、すべては影響ではなく、経験なのです。
ーー今後挑んでみたい題材、次回作の構想などはありますか?
パナヒ:実はもう少しで脚本を書き終えるところなのですが、いまはパリ滞在のための手続きに追われていて、まったく手つかずの状況です(笑)。今すぐにでも撮影現場に飛んで行きたいのですが、この慌ただしさも必ず終わるはずなので、その時がくれば呼吸を整えて、腰を据えて脚本執筆に戻りたいと思います。
■公開情報
『君は行く先を知らない』
8月25日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
脚本・監督:パナー・パナヒ
製作:ジャファル・パナヒ、パナー・パナヒ
出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ラヤン・サルラク、アミン・シミアル
配給:フラッグ
後援:イラン・イスラム共和国大使館イラン文化センター
2021年/イラン/ペルシャ語/1.85:1/5.1ch/カラー/93分/G/日本語字幕:大西公子/字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン/原題:Hit the Road
©JP Film Production, 2021
公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/
公式Twitter:@hittheroad0825