『君たちはどう生きるか』を機に考える、映画における“無宣伝”という永遠の夢

文＝遠山武志

『ブリグズビー・ベア』©2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

　「スニークプレビュー」というのはハリウッドではよく行われるそうですが、新作への反応を調べるために、公開前、事前にタイトルや内容を知らせず一般人に映画を観せるというものです。

　さすがに料金をいただくところまでは踏み込めず、有料会員のメンバー様から募集して抽選で招待するという形にしました。募集をかけたところ、驚くほどの応募がありました。これまでに作品名を出して募集したときの何倍かの数でした。これは一種のゲーム性を面白がってくださったのだと思います。

　この企画は大成功。試写に来られなかった方も、ニュースページやSNSでタイトルを発表すると、「シネマシティがこんな企画をしてまで観てほしい映画ってなんだ？」と話題を作ることができました。

　もちろんすでにこの時、濃い映画ファンには知られた作品でしたが、言ってもシネマシティはシネコンですからミニシアター中心で上映していた作品を有料会員の多くの方は観ておらず、驚きの内容にかなり満足していただけたようでした。まあ作品力が抜群ですからね。

　試写で気に入ってくださった方が、同じように「いいからダマされたと思って観て」と勧めてくださったら、作戦成功。無宣伝の夢は、個人の口コミ単位ならばうまくいきます。実際、この興行は想定を遙かに超える成績となりました。

　何度もできるアイデアではなく、あくまでも飛び道具ではありますが、とにかくその時のお客様の反応が素晴らしかったので、もう一度やりたい気持ちを長く抑えられずにいます。

　そこで考えたのが、タイトルも内容も知らせず、週1回、月に4本で1セットの上映を行うという企画です。そして上映後には僕が簡単な解説と、この映画を選んだ理由を話します。

　なぜ4本セットなのか。それは1本だけだと当たり／はずれだけになってしまうからです。来てくださったお客様全員を満足させられる映画なんてものはありません。その方にとってつまらなければ、満足度が低くなってしまいます。

　しかし複数本なら当たりに出会う可能性が高まります。人それぞれでしょうが、1本でも大当たりがあったら面白い企画だった、と思ってもらえるかも知れません。

　それでもまだ心配があるので、上映後のトークを加えます。この4本は、全部観ると何かしらテーマをなすように組みます。例えば「もう一歩踏み込んだ映画の見方」というようなものです。

　つまりこのことで「映画ガチャ」を楽しんでいただくだけでなく、ちょっとしたカルチャースクールのような学びがあるものにするのです。このことで「学び」という付加価値がつき、当たり／はずれのリスクヘッジになるはずです。

　この企画にはもうひとつの目的があります。「事前情報なしでの鑑賞」に加え「映画との偶然の出逢い」を作りたいのです。テレビでの映画放送も激減し、今は映画を観るときは映画館か動画配信サイトでしょう。自分でチケットを購入するか、クリックして選択することになります。必ず自身の意志が介在してしまいます。30代以下だと「名画座」というものもご存じない方がほとんどでしょう。2本立て上映で目当てとは違う作品を観るということもありません。

　自分の興味範囲を深めるばかりで拡げることが難しくなっている状況。特に若い映画ファンに自分の選択の意志が入り込まない、新鮮な映画体験を味わってもらえたら企画冥利につきます。「喰わず嫌いで観ていなかったけど、ホラー映画にもこんな面白いのあるのか！」とか。

　このアイデアは、僕の中でも極上の隠し玉のひとつですが、実現していないのにこうして書いてしまうのも、反応を見るための観測気球です。それくらい成立するか予測がつきにくいアイデアでもあります。まあパクられたらパクられたときで（笑）。

　映画はもちろんそれ自体が表現そのものですが、その映画をどう見せるかということもまた表現のひとつになり得る可能性があり、人の心を動かすこともあると考えます。

　映画が人の心に残り続けるように、映画の見せ方でもいつか同じようなことができることを信じて、学び、考え続けていきます。

　You ain't heard nothin' yet!（お楽しみはこれからだ）

■立川シネマシティ
『シネマ・ワン』
住所：東京都立川市曙町2ｰ8ｰ5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所：東京都立川市曙町2ｰ42ｰ26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト：http://cinemacity.co.jp/