『THE FIRST SLAM DUNK』“時間帯別上映”のメリットとは? 機会損失の観点から考える

 2022年12月3日に公開が始まり、2023年7月現在いまだに上映が続く映画『THE FIRST SLAM DUNK』。さすがに1日の上映回数は1回のみという劇場が増えている中、夏休みシーズンの上映施策として、朝・昼・夜と週ごと上映時間をずらす「時間帯別上映」を実施している。1週間ずつ、朝・昼・夜に上映開始時間をずらし、これまで時間の都合で足を運ぶことができなかった人に向けて配慮した恰好だ。

 朝帯に上映するのは7月14日~7月20日、昼帯は7月21日~7月27日、夜帯は7月28日~8月2日にかけて実施される。

 この試みは新鮮に映るが、そもそも映画館はこうした機会損失に対して、今までどの程度向き合ってきたのだろうか。そして、この施策は果たしてどの程度興行にプラスになるだろうか、考えてみたい。

シネコンに数多ある1日1回の上映作品

 シネコンは、毎日多くの作品を上映し、その編成も多彩である。

 まず大前提として、人気の話題作は朝から晩までひっきりなしに上映している。『THE FIRST SLAM DUNK』も、2022年12月の公開当初は朝から夜中まで上映している劇場が多かったので、そもそも朝・昼・夜と時間帯別に上映しますとアナウンスする必要もなかった。そういう時には、観たいけれど時間の都合がどうしても合わないという観客は比較的少ないので、機会損失も起きにくい。

 考えるべきは、シネコンで上映される映画は人気作ばかりではないということだ。『THE FIRST SLAM DUNK』のように、すでに上映開始から半年以上経過している作品は、さすがに1日中上映し続けるわけにもいかないから上映時間を限定せざるを得ない。そして、あまり集客力のない作品は、公開2週目から1日1回になってしまうような作品も多々ある。だから、潜在的な観客から「時間が合わない」という声が上がりやすい。

 つまり、この時間帯別上映の是非を考えるというのは、マイナーな映画の上映について考えることでもある。不人気の作品でも、観たいと思っている観客は少なからず存在しており、フレキシブルな時間編成によって、機会損失をいかに抑えられるかという試みなのだ。

 ひとつのシネコンで20作品前後の作品が上映されているので、当然、いつもスクリーンの取り合いであり、マイナー作品はどうしても1日の上映回数は少なくされがちだ。シネコンの事業構造的にそれは仕方のないことである。

 現代人の生活様式は多彩なので、朝に空き時間のある人もいれば、夜の方が空いている人もいるし、ノマド的な働き方をする人なら昼に自由時間を持っている人もいる。劇場側とてこういう課題は認識しており、実際には、上映時間をずらしながら編成することは珍しいことではない。ただ、『THE FIRST SLAM DUNK』のように、映画公式サイトで告知するのは珍しい。

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