『どうする家康』岡田准一が初めて見せた“弱さ”の芝居 信長×家康の愛憎入りまじる感情
『どうする家康』(NHK総合)第27回「安土城の決闘」。家康(松本潤)は、京の本能寺で信長(岡田准一)を討つ計画を家臣たちに明かす。そんな折、家康たちは信長に招かれ、安土城へとやってきた。
酒宴の席で、家康は供された鯉が臭うと言い出した。接待役の明智光秀(酒向芳)が失言したこともあり、激高した信長は皆の前で光秀を蹴り倒す。光秀はその後、任を解かれ、秀吉(ムロツヨシ)の毛利攻めを手伝いに行かされることになった。後に、光秀を信長から遠ざけるための目論みだったことが明かされる。瀬名(有村架純)と信康(細田佳央太)を失った後、家康は腹の内を見せないどころか、信長を討つためなら人をも欺くようになった。その夜、そんな家康と信長が2人きりで対峙する。
第27回は、近しい家臣すら敵と見なし、誰も信じようとしなかった信長の曝け出された心情が印象的な回となった。
「腹の内を見せなくなったな」
信長はそう言うと、「妻と子供を殺してすまなかったと謝ってほしいか?」と揺さぶりをかける。信長の「くだらん」の一言で、家康は怒りをあらわにした。
「人をあやめるということは、その痛み、苦しみ、恨みを全てこの身に受け止めるということじゃ!」
2人が感情のままに言い争う中で、信長はこれまで一度も見せてこなかった姿を家康に曝け出した。
「俺は……どれだけ殺した?」「どれだけ……殺した?」と自問自答する声色は震え、涙が浮かぶその目は、自らが殺めた命を悲しみ哀れんでいるようにも、数え切れないほどの命を奪ってきたその報いに恐怖しているようにも見える。信長は「この報いは必ず受けるであろう」「俺は誰かに殺される」と冷静な口ぶりで口にする。物語冒頭で信長は誰かに殺される悪夢を見ており、目を覚ました時には息を荒らげていた。信長も人並みに死を恐れているのだとうかがえる。夢の中で信長は、血に塗れた手を伸ばして自分を殺めたのが“誰か”を確かめようとしていた。それが誰なのかは定かではない。けれど、「10人殺せば、10の痛み……。100人殺せば、100の痛み。万殺せば、万の痛みじゃ!」という信長の言葉を聞く限り、もしかすると毎晩のように、殺めた人に殺される夢を見てきたのではないか。
これまでの信長らしくない、弱い姿を見せた信長だが、家康の前で曝け出した弱さを断ち切るためか雄叫びをあげて刀を振り下ろす。落ち着きを取り戻した信長は、この先の政を見据えて家康にある思いを告げる。
「戦なき世の政は、乱世を鎮めるよりはるかに困難じゃろう。この国のありすがたのためには、やらねばならぬことが多すぎる」
「恨め。憎んでもいい。だから……俺のそばで、俺を支えろ」
幼き信長は父・信秀(藤岡弘、)から「誰よりも強く、賢くなれ。お主の周りは全て敵ぞ」「身内も家臣も、誰も信じるな。信じられるのは己一人! それがお主の道じゃ!」と言われ、育った。誰のことも信じず、使えない者は容赦なく切り捨ててきた信長だが、家康だけは唯一「信じたい」と願っていたのではないか。信長の声色からは、唯一信じられる家康にこそ支えてほしいという切実な願いが伝わってきた。