『どうする家康』松本潤、涙を封印して覚醒のとき “か弱いプリンス”から“最強の天下人”へ

 『どうする家康』(NHK総合)で松本潤が演じている徳川家康は、正妻の瀬名(有村架純)から、最期の別れの場面でも「相変わらず、弱虫、泣き虫、鼻水垂れの殿じゃ」と言われるほど、よく泣く、か弱い存在だった。

 子供の頃、人質だったとはいえ織田信長(岡田准一)から強引に相撲の相手をさせられては投げ飛ばされ、大人になって同盟を結んだにもかかわらず「俺の白兎」呼ばわりされて、家康は信長に耳を噛まれたりしても抵抗すらできずにいた。

 徳川家臣団の立場からしたら、「うちの殿、大丈夫か?」と、もどかしくなることも多く、優優柔不断な殿が「どうしよう」と涙目になるのを間近で見るにつけ、自分たちが強くあらねばと殿を支えていく心構えが自然に備わっていった。それは瀬名にも言えることで、戦国武将として背負うものがありながらも自分の弱さを隠そうともせず、優しすぎて臆病になる家康を愛し、可憐な少女から頼もしい妻へと成長を遂げた。

 戦での疲れを癒してくれる瀬名と過ごす甘く穏やかな場面で見せる自然な表情も、勇ましくもユニークで賑やかな家臣団に囲まれて、喜怒哀楽を分かち合うプリンス的な振る舞いも、不思議と惹きつけられてしまう魅力が満載の松本潤。

 とはいえ、これまで大河ドラマでは、さまざまな武将の生き様が描かれてきたが、前半を通してもはっきりとした成長が描かれなかった主人公も珍しい。本作の家康という主人公は家族や家臣に守られ、ときに叱られたり甘やかされたりしながら、どうにかピンチをくぐり抜けてきた。戦国の世、“か弱いプリンス”は、いつ覚醒するのだろうか。

 瀬名だけは「白兎」のままの弱虫で、本当は戦が嫌いで逃げられるものなら戦など行かずに家族でのんびり暮らしたいと願っている幼い頃のまま、ピュアな殿でいてほしいと思ってはいたが……。なかなか成長しない家康に、家臣団のみならず視聴者も「家康、大丈夫か?」「このままで天下取れるか?」と今後の展開も含め、ヤキモキすることもあったのではないだろうか。

 周りの人たちが自分を守るために成長し、命まで差し出す覚悟でいることに対してその重さを受け入れることに戸惑いさえ感じているような家康。ある種の人徳、生まれ持った品格のような独特な存在感を発揮する松本潤だからこその、この役柄に対する説得力はある。とはいえ、彼は立場上守られる弱い存在のままではいられないのだ。

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