『らんまん』万太郎と綾に訪れた親離れと進むべき道 朝ドラが描く子どもたちの変化と成長

 人はいつ、“親離れ”をするのだろうか。私たちはどのようなタイミングで、本当の“親離れ”を果たすのだろうか。これは個人の置かれている環境などによって大きく違ってくるものなのだろう。いつまで経っても親元から巣立つことのできない人がいれば、成人を機に自覚的に巣立っていく人もいるし、家庭環境によってはもっと早い段階で独り立ちを余儀なくされる場合もあるはず。放送中の朝ドラ『らんまん』(NHK総合)ではついに、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)がこの“親離れ”を果たそうとしているところである。

 万太郎といえば、幼い頃に最愛の母・ヒサ(広末涼子)を亡くしている。それより前に父も亡くしており、母の亡きあとは姉の綾(佐久間由衣)と2人、祖母のタキ(松坂慶子)に育てられてきた。そしてこのタキはなんといっても厳しい人だった。この姉弟は幼いうちにとても寂しい思いをしている。だからこそ、優しいおばあちゃんの元で……とはいかなかったのは多くの方がご存知のとおり。万太郎にしても綾にしても、“甘やかされる”なんてことはなかった。むしろこの姉弟に対する教育や躾は容赦なく、観ているこちらまでが目を伏せてしまったくらいだ。名家である造り酒屋「峰屋」の看板を守るため、タキはタキの負うべき責務を意識していたのだろう。だからこそ、どこへ行っても恥ずかしくない礼儀作法を2人は身につけることができた。

 そのいっぽうで、この姉弟の自我は早くに芽生え始めた。万太郎は植物学者の道へ、綾は家業の「峰屋」を継ぐ道へ。時代が時代なだけに本来であれば男性の万太郎が「峰屋」の跡取りとなるのが当然であり、家業からかけ離れている植物学者の仕事などもってのほか。綾は綾で、女性には務まらないとされていた酒造りの世界に飛び込んでいった。自我の芽生えーーこれが2人にとっての“親離れ”の始まりなのではないだろうか。それぞれの目の前に壁が現れるたび、2人が岐路に立たされるたび、私たちはタキの存在を思い出す。最愛の祖母にして身近な敵でもあった彼女に恥じぬよう、歩を進めなければならない。

 近年のほかの朝ドラ作品にも、さまざまな“親離れ”が見受けられた。前クールに放送された『舞いあがれ!』(NHK総合)では、ヒロイン・舞(福原遥)が父親を亡くしたことにより、自身の夢であったパイロットの道を断念することに。しかしそれは絶望ではなく、父が遺した会社を支えるという新たな希望の物語の始まりだった。自らの意志で、父の遺志を継ぐ。彼女からはしだいに幼さが消え、より主体性を持つようになり、やがて母とは「パートナー」ともいえる関係性を築き上げていった。あれは舞にとっての“親離れ”だっただろう。

関連記事