『ジャンゴ ザ・シリーズ』は西部劇なのに新しい 受け継がれた『続・荒野の用心棒』の精神

 クエンティン・タランティーノ監督の西部劇『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)は、『続・荒野の用心棒(原題:Django)』(1966年)にリスペクトを捧げた作品だった。スターチャンネルにて現在放送中の『ジャンゴ ザ・シリーズ』は、このマカロニ・ウェスタンの名作として名高い映画を、イタリアの犯罪ドラマ『ゴモラ』製作陣が、現代のドラマシリーズとしてリメイクしたものだ。

 その内容は、ファンも驚くような新たなアプローチがいくつも見られる、挑戦的なものとなった。最も興味深いのは、映画ファンの愛する『続・荒野の用心棒』の要素と、現在の世界の状況を反映した要素が絡まり合うような、斬新なものになっているという点である。ここでは、そんな『ジャンゴ ザ・シリーズ』の中身と、受け継がれたものを見ていきながら、この作品が何を描いているのかを考えていきたい。

 「マカロニ・ウェスタン」とは、イタリア製の西部劇を示す言葉だ。西部劇といえばアメリカの西部開拓時代を舞台に、無法者や保安官などがガンアクションやスタントアクションを繰り広げるジャンルとして知られていて、基本的にはアメリカで製作された映画を指すことが多い。そんな西部劇を、イタリア人たちがアメリカ映画風に撮りあげたものが、マカロニ・ウェスタンや、イタロ・ウェスタンなどと呼ばれている。

 その先駆者となったのが、『続・荒野の用心棒』のセルジオ・コルブッチ監督である。人気に応えて年に数本のペースでマカロニ・ウェスタンを撮っていた職人であり、とくに『続・荒野の用心棒』は、娯楽性と暴力性が突出する鮮烈な内容で、観客の度肝を抜いた傑作として知られている。

 原題が『ジャンゴ(Django)』にもかかわらず、邦題で『続・荒野の用心棒』と名付けられたのには、複雑な経緯がある。クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』(1964年)は、もともと黒澤明監督の名作時代劇『用心棒』(1961年)を、無許可で翻案したマカロニ・ウェスタンだった。だが、この暴力的で娯楽性の高い刺激的な作品は、西部劇の本場アメリカでヒットを記録し、日本でも大きく評価されることになった。

 もともと『ジャンゴ(Django)』は『荒野の用心棒』とはかかわりのない作品だったが、日本では宣伝効果を目論んで、続編であるかのような邦題をつけることとなった。確かに、めっぽう強い流れ者が小さな町にやってきて、町を支配するならず者集団を壊滅させるといった、物語の展開自体は似通っているので、このような売り出し方をしてしまったのも理解できなくはない。

 とはいえ『続・荒野の用心棒』は、それ自体がオリジナリティにあふれた、圧倒的に面白い一作だったことに間違いない。この作品に魅了されたタランティーノ監督は、最初の作品『レザボア・ドッグス』(1992年)から、すでに『続・荒野の用心棒』における、耳を切断する拷問シーンをオマージュとして作品にとり入れ、『ジャンゴ 繋がれざる者』では、タイトルのみならず主題歌まで引用して、作品への愛情を繰り返し表現している。

 『続・荒野の用心棒』で最も印象的なのは、フランコ・ネロが演じた、棺桶を引きずって歩く不吉な主人公“ジャンゴ”の、ケレン味溢れる強烈な存在感だろう。拳銃の正確な早撃ちにより複数の敵を一瞬で片付けられる強さはもちろんのこと、高速で連続射撃ができるガトリングガンを用いて数十人もの悪漢を一気に地獄送りにしてしまう、豪快な描写が圧巻だ。

 『ジャンゴ ザ・シリーズ』では、マティアス・スーナールツ(『君と歩く世界』)が、この伝説的なダークヒーローを演じる。彼はベルギー出身だが、他にもスウェーデン出身のノオミ・ラパス、イギリス出身のニコラス・ピノック、ドイツ出身のリサ・ヴィカリなど、ヨーロッパ各地の俳優がキャスティングされている。これはまさしくオリジナルを尊重し、アメリカを舞台にしながら“非アメリカ”を貫こうとする意図があるからだろう。また、オリジナルのジャンゴ役、フランコ・ネロも、荒れ果てた教会の飲んだくれ牧師という味わい深いキャラクターとして出演し、銃を構えたり馬に乗る姿を見せるなど、健在ぶりを示してくれている。

 さて、本シリーズは、ジャンゴ(マティアス・スーナールツ)がテキサス州の“ニュー・バビロン”と名付けられた、小さな町に現れるところから始まる。そこは、アフリカ系のジョン・エリス(ニコラス・ピノック)が率いる、黒人も白人も平等に扱うコミュニティによって営まれていた。時代は、南北戦争から7年後の1872年。奴隷解放宣言が発せられた後とはいえ、南部の州ではアフリカ系住民への差別や弾圧が苛烈であったことを考えると、革命的な共同体だといえよう。

 しかし、隣町のエルムデールの人々は、そんなニュー・バビロンに偏見を持ち、敵対視している。彼らをまとめるのは、町の有力者であり狂信者のエリザベス・サーマン(ノオミ・ラパス)。彼女は、ニュー・バビロンのリーダーであるジョンの存在に固執し、土地の権利を奪おうとしていた。腕っぷしや銃の扱い、そして洞察力に長けたジャンゴは、次第にジョンの信頼を得て、エリザベスの陰謀からニュー・バビロンを助ける立場となっていく。

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