MCUが足を踏み入れた“やばい”領域 先が予想できない『シークレット・インベージョン』

 これまでMCU (マーベル・シネマティック・ユニバース)作品は、そのときそのときの社会問題と結びつく要素を、ヒーローの物語のなかに編み込んできた。だがこの度配信がスタートしたドラマシリーズ『シークレット・インベージョン』に限っては、さらに一歩進み、かなり“やばい”領域にまで足を踏み入れてしまったのかもしれない。

 本シリーズ『シークレット・インベージョン』の主人公は、ヒーローチーム「アベンジャーズ」を結成させた、国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.(シールド)の元長官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)だ。そして、タイトルとなっている「シークレット・インベージョン」とは、「密かな侵略」という意味。秘密裏に地球の侵略計画を進める者たちと、そのたくらみにフューリーが対峙するといった内容になりそうだ。

 そんな本シリーズが、この物語を通していったい何を描くのか、そして、何がやばいのかについて、第1話「復活」配信の時点で考えていきたい。

 今回、事態を動かすのは、『キャプテン・マーベル』(2019年)などで登場した“スクラル人”という、あらゆる人物に擬態することができる地球外の種族。この種族は住む惑星をなくした宇宙の移民といえる存在であり、キャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァースと、ニック・フューリーが、1990年代に彼らが住むための惑星を見つけることを約束していたことが、映画のなかで描かれていた。

 だが、本シリーズで明らかになるのは、その約束が十分に果たされず、30年もの月日が流れてなおスクラル人居住のための惑星が見つかっていないという状況だ。ダンヴァースとフューリーが惑星を探し出せなかった事情については、おいおい語られることになるのだろうが、一部のスクラル人、とくに若い者たちは強い不満を持ち、各地で暗躍しテロ活動を始めているのだという。

 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)で説明されたように、フューリーは宇宙ステーションで活動していたはずだ。しかし、彼は任務を政府に無断で中断し、本シリーズで地球に再び降り立つことになる。そこで直面するのが、スクラル人が関与していると思われる国際テロ事件なのである。

 スクラル人の味方であるタロス(ベン・メンデルソーン)やS.H.I.E.L.D.での部下だったマリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)らとともにロシアで調査を開始したフューリーは、かつて協力関係にあったという、イギリスの諜報員ソーニャと出会う。彼女を演じるのは、なんと名優オリヴィア・コールマンだ。さらに、スクラルの秘密組織に加わってしまう、タロスの娘ガイアを演じるのは、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のエミリア・クラーク。

 ところで、ロシアでフューリーは気になるものを目にしている。大きなボールで遊ぶ、不気味な雰囲気を持った少女である。この演出は、オムニバス映画『世にも怪奇な物語』(1968年)における、フェデリコ・フェリーニ監督の一編『悪魔の首飾り』で登場したイメージを想起させるものだ。

 『悪魔の首飾り』でテレンス・スタンプが演じたのは、かつて大スターだった落ち目の俳優ダミットである。ダミットはアルコールに依存し、夜のローマの街をフェラーリに乗って疾走する。そこで彼は、不気味に微笑みボール遊びをする少女に引き寄せられ、帰らぬ人となってしまうのだ。この展開を踏まえると、このドラマで衰えが指摘されるニック・フューリーの身に何か不幸が起こってしまうのではないかと、心配でならない。

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