『らんまん』「愛の花」を思わせるタキの生き様 万太郎は新種発見の快挙も次の目標へ

〈空が晴れたら 愛を 愛を伝えて 涙は明日の為 新しい花の種〉

 『らんまん』(NHK総合)第60話は、主題歌「愛の花」(あいみょん)の歌詞がいつもより胸に刺さる回だった。そばにいてほしいというたった一つの願いを胸にしまい、万太郎(神木隆之介)に1日も早く東京へ戻るよう進言したタキ(松坂慶子)。そうやって自分の心を押し込んで、人知れず流した涙がいくつあっただろう。想像するだけで胸が痛むけれど、続く第61話はその涙が土壌を潤し、立派な草木を育ててきたことを実感させた。

 万太郎がマキシモヴィッチ博士に送った標本の中から、マルバマンネングサが新種として認められた。学名には「セドゥム・マキノイ・マクシム」と、万太郎の姓も添えられている。田邊教授(要潤)の戸隠草がまだ新種と断定されていない一方で、植物学者としてはまだ無名の万太郎がこの快挙を成し遂げたことは学界を揺るがす大事件だ。

 それなのにひと喜びし終えた万太郎は一転、浮かない表情。自分が名付け親になりたかったという思いがふつふつと湧き上がる。当時、日本の植物学はまだ黎明期で、新種かどうかの判断はより標本や文献の数が充実している海外の学者に委ねられていた。そこで仕方ないと割り切ることができないのが万太郎だ。彼の強欲ぶり、強欲がゆえの進化、成長はあの日峰屋を出た日から留まるところを知らない。それもこれも、タキが〈言葉足らずの愛〉とともに送り出してくれたおかげである。

 綾(佐久間由衣)に対しても同様だ。税金の改めで役人がやってきたとき、決まってタキは奥に控えたままで姿を現さなかった。当主の座を綾に譲ると一度決めたら、ああしろこうしろと一切口を出さず全て任せる。それが彼女の美学なのだろう。その教育方針が綾の、役人の厳しい取り立てにも怯むことなく立ち向かう度胸と、決断力を伸ばした。普段とは異なる装いで竹雄(志尊淳)とともに出かける綾。行き先は土佐中の酒屋。非合法の酒が世の中に出回らぬように酒造組合を作り、政府に自分たちの正当性を主張するためだ。家紋入りの黒羽織を纏った綾の力強い眼差しの奥にタキの姿が浮かぶ。

 タキは大地にしっかりと根を張り、枝を伸ばし続け、その先に綺麗な花を咲かせる幹のよう。その枝の一部である万太郎は寿恵子(浜辺美波)の花嫁衣装を選ぶため、タキが呼び寄せた呉服商・仙石屋の義兵衛(三山ひろし)からヤマザクラが病を患っていると聞く。てんぐ巣病と呼ばれる伝染病にかかり、切り倒される日をただ待つヤマザクラと、同じく病で日に日に身体が弱っていくタキをつい重ねてしまう万太郎。「草の道を選ばせてもらったがじゃ」と病巣を見上げる彼の目に決意が宿る。桜は一瞬で散ってしまうが、木が生き残っていれば毎年花は咲く。どうか人々の心の支えとなっているヤマザクラの木が切り落とされることなく次の春を迎えることができるよう、今はただ祈るばかりだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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