『だが、情熱はある』に多くの人が没入した理由 ドラマ化の壁を乗り越えた再現度

 現代に生きていて、大きな困難があるわけではなくても、何をもって達成感を得るのか、何をしたら大人になれたのか、何をしたら成功したと言えるのかがわからない感覚を持っている人は多いのではないだろうか。かつてであれば、年齢とともに自然に身に着けていけるものとされていたが、年々、あやふやになっているように思える。

 芸人の場合も、以前であれば、冠番組を持つとか、コンテストで優勝をするとか、誰もが成功したと認めてもらえる基準があったかもしれないが、現在は、それは個々によって違うものになっているだろう。しかも、一度、成功したとして、それがずっと続く保証もない。

 『だが、情熱はある』では、芸人のことを描きながらも、誰もが感じている、そこはかとない生きづらさや、所在のなさのようなものと重なるものがある。けれども、何かを諦めたり、冷ややかでいるわけではないという状態を、『だが、情熱はある』というタイトルがうまく表している。そんなところが、多くの人に自分のことのように共感されるのかもしれない。

 最終話では、2021年5月31日、コロナ禍の真っただ中に無観客で行った生配信ライブ『明日のたりないふたり』が描かれることがわかっている。このライブでは、「たりない」人でいるか、「たりている」人であるべきなのかをめぐって、若林が満身創痍になりながら、山里にすべてをぶつけていたことが印象的であった。また、その生きざまが、Creepy Nuts(ドラマでは、クリー・ピーナッツとなっている)のような世代に受け継がれる姿が映し出されていて、私も号泣しながら観たのを覚えている。この場面が、どのようにドラマに描かれるかが楽しみでもあり、あまりにもすごいライブであったため、どこか身構えてしまう自分もいる。

 しかし、芸人ふたりの抱えているものを、番組を通じて引き出し、ぶつけあって化学反応を生み、そしてドラマとしてその軌跡をまとめあげた、ほかにはない企画であったと思う。

 ドラマのナレーションの言葉を借りるならば、「しかし断っておくが、友情物語ではないし、サクセスストーリーでもない。そして、ほとんどの人において、まったく参考にはならない」という言葉がしっくり来る。この姿勢があるからこそ、難しいタイプの実話のドラマ化に成功しているのではないだろうか。

■放送情報
日曜ドラマ『だが、情熱はある』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:髙橋海人(King & Prince)、森本慎太郎(SixTONES)、戸塚純貴、富田望生、三宅弘城、池津祥子、ヒコロヒー、渋谷凪咲(NMB48)、中田青渚、箭内夢菜、森本晋太郎(トンツカタン)、加賀翔(かが屋)、賀屋壮也(かが屋)、藤井隆、坂井真紀、白石加代子、光石研、薬師丸ひろ子
脚本:今井太郎
演出:狩山俊輔、伊藤彰記
プロデューサー:河野英裕、長田宙、阿利極
チーフプロデューサー:石尾純
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/daga-jyounetsu/
公式Twitter:@daga_jyounetsu

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